農と食の社会課題を考える
このnoteをご覧頂きありがとうございます。
前回の記事では、ちまたにいろいろと存在する〇〇農法といった
農法の違いとその目的ついてに述べさせて頂きました。
今回は弊社が掲げる、
【農と食の社会課題MAP】の説明とその目的について述べさせて頂きます。
【社会課題のきっかけはピーマン】
農業に携わるようになり11年になりますが、当時はまだまだ農業に興味を持つ人たちは多くなかったかのように思われます。
無肥料、無農薬での栽培方法や理論を構築する中で、
実のところバイオスティミュラントでできることは農業の枠に収まらず、
環境や健康、リサイクルなど様々な分野と関係があるんじゃないかとわかってきました。
このMAPを作成するきっかけになったのは、とあるピーマン農家さんに起こった出来事でした。
5棟のハウスで栽培し、年々栽培するのが難しくなってきていると。
まだ理論の構築途中だったため、取り敢えず資材を試しに使ってみたいとなりました。
これまでと変わらない方法(一番収量が良かったハウス)
途中から葉面散布実施(当初これまでどおりの栽培で行く予定だった)
葉面散布だけ実施(土壌の施肥設計はこれまでどおり)
土壌改良のみ実施(葉面散布は行わない)
土壌改良も行い、葉面散布で栽培(これまで一番収量が悪いハウス)
というようにハウスそれぞれで栽培方法を変えて頂き、結果としては大きな違いが出ました。
1番ハウスと5番ハウスの比較が以下の写真です。
見るからに明らかに生育状況が変わり、1番と5番の収量の差は3倍以上になりました。
農協さんへの出荷記録が画像真ん中の資料になりますが、
この地域の部会での平均収量は反あたり5t未満のところ
この方はこれまでが反8.5t、R3年度に至っては13tとなりました。
害虫や病気の発生も激減し、収量も格段に向上、気温の変動にも強くなり、
この部会では収穫時期が終わったにも関わらず、ひと月以上も長く収穫ができるようになりました。
しかし、ここで課題を考えるきっかけになる出来事が起こりました。
この生産者さんにとっては良い変化だったにも関わらず、
他の生産者さんよりも過剰に出荷でき、買い取り単価を下げられた
選果場を閉められるてしまい、ひと月分荷受けしてくれなくなった
このような出来事が起きてしまいました。
単純に述べると
君だけ作りすぎだから、安く買い取るね
最後の方は君しか栽培できてないから買い取りしないね
こんな感じ。
より良くするためにいろいろと試験し、良い結果が出たにも関わらず、
逆に首を絞める形になってしまいました。
あまりにも悲しく、理不尽な出来事です。
この件をきっかけに、栽培の現場だけを良くしたとしても、
買い取り側や周辺の生産者さんとの関係など、様々な要因を含めて考えないと、より良くすることはできないかもしれないと考え始めました。
【社会課題の連鎖を考える】
私自身がどのようにして考えていったのかというと、
ひとつの生産現場を改善するには、全体の収量を考えないと他の生産者に迷惑がかかる
地域ごとや日本全体の収量や世の中の流れを考えないと収量が増えれば価格が落ちる
収量が少なければ価格が上がる(結局需要と供給のバランスが大事)
今の生産工程や規格、流通がどうやって構築されてきたのかを考え始める
加工事業などが実は規格外品ではなくA品レベルでないと扱えない業態が多いと知る
B、C品といった規格外品は生産者にとってほぼ価値が付かない
一方、タダ同然で仕入れ、規格外を安い正品として売る業者がかなり多い
加工という過程が入るにも関わらず一般的な原料価格と加工品の販売価格のバランスがおかしい
結局生産者がかなり割食う感じになっている
大量生産、大量消費のために農薬や化成肥料に頼った栽培をせざるをえない
大量生産するため、廃棄も多くなる
薬剤まみれの栽培で環境は壊れ、それを摂取する人も動物も壊れる
他にもいろいろと考える流れはありますが、基本的にこのような流れで現状の農と食に関する社会課題が連鎖しているんじゃないかと考えました。
この社会課題をMAP化していけば、どの課題を誰とどうやって解決していくのが良いか見えるんじゃないかと作成したのが冒頭に提示した【農と食の社会課題MAP】になります。
この社会課題MAPでは、STARTが「世界的な人口増」となっていますが、考え始めは全然そんなことなく、ピーマン農家さんに起きた悲劇です。
【社会課題MAPで掲げる5つの課題】
社会課題MAPにおいて、上下左右、真ん中の5つに位置する課題があります。
フードロス、食糧不足
環境破壊
生産者の担い手不足
格差拡大
健康被害
は食糧が一部では無駄になり余る現象と、逆に足りずに餓える人たちもいるという矛盾した課題。
は世界的にみると人口が増え、食肉の家畜を殖やすことでCo2排出量が増加したり、工業が発展することで化学物質の排出が増加し、環境が破壊されている課題。
は気候変動による栽培が困難になっていることや肥料など生産コストの増加、生産者さんが高齢化によって単純に減っているという課題。
は都市部と地方という単純な格差だけでなく、都市部は都市部の中でも、地方は地方の中でも格差が拡大し、貧富の差が大きくなっている問題。
は貧しい人たちは安価な加工品や薬品まみれの食材に頼るしかなく、病を未然に防ぐための予防医学まで考えが回らず、健康被害が起こってしまう課題。
それぞれの課題は一見繋がりが見えにくいものですが、社会課題MAPのようなマクロ的視点で見ると全て繋がっています。
しかし、繋がっているからこそひとつを解決しようと動くと他の課題に巻き込まれて解決できないことが起こってしまいます。
これまでの資本主義社会における弊害で、業界ごとに利権が絡むため、解決させないことが重要になっている場合もあるのかなと。
【社会課題は個々で解決できない】
社会課題というように、このようなマクロ的な視点で考えると、
個々人で何か行動することで解決できるようなものではないと思います。
しかし、提示することで共感してくださる方たちを見つけ、
同じベクトルで解決策を一緒に考え、活動することができると時間はかかっても解決できるかもしれないと思っています。
現状、弊社として少しずつ動いているのが6つの施策です。
①カーボンニュートラルの実現
とある事業者さんとともに、もみ殻などバイオマス燃料を活用した温室ハウスでの観光農園を構築し、化成肥料を使わず、植物の光合成を高めることで空気中の二酸化炭素の吸収量を増やし、Co2排出と吸収のバランスをとるカーボンニュートラルの実現する活動。
②食品残渣の有機堆肥化
とある産業廃棄物のシステム管理をしている事業者さんとともに、
食品残渣を弊社の微生物を用いて分解し、堆肥化を実現することで、焼却処理をしていた食品残渣を有機堆肥として活用する活動。
③健全な加工流通システムの構築
生産者、一次加工事業者、製品加工事業者、販売者全てと連携し、価格の透明化を行い、関わる人全てが損せず利益を共有、分配するシステムを構築し、健全な流れをつくる活動。
④生態系理論によるオーガニック化
弊社の生態系理論を用いたオーガニック生産者を増やす活動。
⑤オーガニックビレッジによるコミュニティ化
農林水産省が掲げる日本全国で2030年までに200の市町村でオーガニックの町づくりをするという施策「オーガニックビレッジ」を支援し、各地のコミュニティをオーガニック化する活動。
⑥予防医学の拡充による医食同源化
メディカルライスなどの予防医学で活用できる原料生産のサポートや食による予防医学の知見を拡充することで、医食同源を実践する活動。
とこのように、様々な業界や業種の方たちと組むことで少しずつ社会課題を解決するための活動を構築しています。
だいぶマクロ的なお話になりましたが、ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回は、農業塾でお話する「F1種と固定種の違い」について説明したいと思います。