見出し画像

【ざっくり解説】著作権法改正に関する報告書が出た

今回は、今週提出された著作権法改正に関する内容。以下のものを見ていただければ、概要と関係者の反応が分かることと思う。

ここでは、以下の内容について、簡単に解説をしていきたいと思う。まだ関係者もちゃんと報告書を読んでないみたいで、ちょっと見当違いな反応も出ているので、その辺のことがわかるように書くつもり。

あ、報告書はこちらね。

対象となる図書館資料の区分

今回の変更のポイントは「図書館で資料を閲覧・コピーする」ことの制限が緩くなりますよ、ということだ。

報告書では「入手困難資料」と「図書館資料」の2つに分けて論じているので、ここでもその2つそれぞれについて記載する。ちなみにこの2つの定義、というかイメージはこんなかんじ。

● 入手困難資料:要は絶版本をイメージすればOK。絶版本に代表されるような、国民が買おうと思ってもなかなか買えない、市場にほとんど出回っていない本のこと。
● 図書館資料:要は絶版じゃないその他の本ってイメージでOK。普通に買える。本屋行けばあるとか、Amazonで買えるとか、そういうもの。

厳密な定義ではないし、「あの本はどっちに当てはまるんだ」と迷うものもあると思うけど、とりあえずそういう区分けなんだな、ということで次に進んでもらいたい。

入手困難資料に関する変更点

入手困難資料は今までどういう扱いになっていたかというと、
国会図書館から各図書館にデータが送信されて、各図書館に行って所定の手続きを取れば閲覧ができる。
更に、追加で手続きを取れば、一部のみ複製(コピー)ができる。

この一部というのは、絶版とは言え著作権が切れていない場合は、「一章分の半分まで」とかその程度。私が学生の頃、所属大学の図書館でそう言われて面倒な思いをしたので覚えている。
余談だが、こういった資料の複製は、原則「調査・研究目的のみ」とされている。知ってた?笑
本当はただ楽しむためにコピーしちゃいけないんだぜ。まぁ実際研究目的かどうかなんて見分けはつかないから、有名無実化しているけども。

この制度の課題は、「図書館に足を運ばないと閲覧も複製もできない」ということにある。特にこのコロナ禍で図書館が臨時休館になった際、それでも研究活動を行いたい研究者等(作家もそうだったみたい。この前米澤穂信が講演会で言ってた)は、図書館が空いてないけど入手困難資料を閲覧したい、となったときに手詰まりになっていたのだ。

それに対応するため、今回の報告書では、「入手困難資料を各図書館から各家庭に送信できるようにしよう」と言っている。まあ要するに図書館のHPから手続きを取れば、PCやスマホで閲覧可能にしようぜ、ということだ。
なお、複製もしてよいらしい。
これによって、研究者等は大歓喜でしょ、というわけだ。

もちろん、複製の範囲については元の制限と同様、全部コピーはしちゃだめだと思う。

で、入手困難資料に関しては、これによって著作権者や出版権者に生じる不利益も大きくないだろう、ということで補償金制度は設けないことになっている。

図書館資料に関する変更点

次はその他の資料。
こちらも、基本的な変更は同じ。

・図書館にある資料をデータで閲覧可能にする。複製もOK。

複製範囲も同上。違うのは以下の2つ。

・データで送信できるのは、資料の一部のみ
・著作権者・出版権者に与える影響が大きいので、補償金制度を設置

入手困難資料はデータでの閲覧が可能(明言されていないが、おそらく資料の全体が見られるのだと思う)なのだが、図書館資料についてはその一部のみがメール・FAX等で送信されてくるらしい。
その資料を全部読めるわけじゃない。

まぁこれは館内で閲覧しているものを複製して持ち帰るのと実質同じことなのだから、まあそうだよね。
ただ今回の報告書では、「一部しか送信はしないんだけど、それでも」ということで補償金制度を設置することにしたみたい。

どんな制度かと言うと、ちょっと文章で羅列すると面倒なので表にまとめてみる。

読書ニュース用

補償金制度の概要

ポイントは、
・毎回金額を決める
・著作権者だけじゃなく、出版権者も補償金をもらえる
の2つくらいかな。

なお、この金額はかなり安いものが想定されている。
この支払負担者の項目の中で、こんなことが書かれている。

本件補償金は、現行の図書館資料のコピー・郵送サービスにおける印刷代・郵送代と同様、「実費」として捉えられる
(図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書(案)、20頁)

だから、各図書館が支払いすることになっても大丈夫だよね、という考えのようだ。

本報告書に係る論点

今日は細かい検討まではしないけど、以下の論点は今後検討される必要があるかなと思っている。

・入手困難資料のデータ閲覧範囲
⇒資料全体を閲覧可能にしたら、そのまま資料全体も複製できてしまうが、それで良いか。もしダメなら、一部のみ複製可能にするためのシステム上の制限を付与する必要があるが、そんなシステムを構築するのが面倒じゃないか。
・データ送信手続きの煩雑さ
⇒上記に付随して、データ送信をどのように行うかがまだ報告書内では固まっていない。一定の情報を入力するとデータへのアクセス権限を得られる、という形であればまだ良いが、こちらもいちいち図書館から個別送信を行う形態であれば、司書に係る仕事量が激増しかねない。
・入手困難資料、図書館資料双方の権利者へ与える影響の大きさ
⇒全体的に、そこまで大きな影響はなさそうに見えるものの、絶版本の再版(岩波文庫とかたまに復刻版発売したりしてるよね)をする利益が小さくならないか。
・補償金額の考え方
⇒上記に関連し、報告書内でも補償金額には「逸失利益」を含むとしているが、それが「実費」程度の安い金額になるのか。個人的には、この制度を開始したタイミングで一定の固まった金額を権利者へ補償して、その後個別のデータ送信に付随して「実費」程度の補償金を支払う形が良いのではないかと思っている。なお、その場合は図書館に財源負担をさせるのは厳しいので、誰が「固まった金額」を出すかも課題。
・補償金算定~支払いに係る手続きの煩雑さ
⇒個別に補償金を算定することになっているが、実際にどの程度の閲覧申請が来るかを想像すると、図書館司書の仕事すごく増えないかな、という心配。ただでさえ廉価で専門的な仕事を任されている司書という仕事が、今以上に激務となってしまうと、今後の司書志望者の減少を招くことになるので、改めてそこも検討してほしい。

法改正の時期

まとめというか、この法改正がいつから施行されるのかという話と、我々一般消費者への影響、及び関連業界への影響を最後に簡単にコメントして終わろうかと思う。

文化庁はこの著作権法改正に関する議論をこれから法案化する作業に入る。法案は2021年の通常国会で提出される予定なので、施行されるのがいつになるかはわからないが、とりあえず来年のどっか、ないし再来年くらいだと思っておけば間違いはないだろう。

一般消費者への影響

今まで図書館に行かないと閲覧できなかった資料が、図書館に行かなくてもデータで見られるようになるだけだし、我々が補償金を支払う必要もないことになっているので、一般消費者にとってはメリットこそあれ大したデメリットはない。

関連業界への影響

まあ問題というか、これから議論になるのはこの辺だろう。冒頭引用した日系記事から、いろんな人の反応を見てみよう。なお、事前に断っておくと、この記事は10月18日に出ているので、今回の報告書を踏まえた反応ではない。ワーキンググループがこういう検討しているよね、という状態で出た反応なので、多少報告書と異なる認識を抱いているのはしかたない。

ただ、敢えてこれにしたのは、関連業界のいろんな人が発言していることと、いずれにせよ報告書の中で彼らの懸念がどこまでクリアされているかがわかると思ったからだ。
ではいってみよう。

日本書籍出版協会の樋口清一専務理事は「一度無料で配信されたら、後で有料で出されても買わない。コミック配信などへの影響が心配」と話す。

これは、「入手困難資料」に限ってはそう。岩波書店がたまにやってる「復刻本フェア」的なものに対する影響は出かねない。入手困難資料の全体をデータ送信してしまえば、出版業界が改めて絶版本を復刻する際には「新訳」とか「装丁が豪華に」とか「新しい解説を付与」とか、内容とは別の付加価値をつける必要が出てくるので、まあ嫌がる気持ちはわかる(復刻するときは今でもやってるけどね)。

ただ、これを「図書館資料」全体に対しての懸念だとしたらそれは大丈夫。図書館資料は一部しか送信されないので、全体を閲覧できるのは各出版社が有料で販売したもののみになる。
したがって、単純に「一度無料で配信され」ることはないと思うのでご安心を。

現在、各図書館の複製郵送サービスでは「調査研究のため」という目的で、著作物の半分までを複写代や郵送費などのほぼ実費で送ってもらえる。だが本当の目的を図書館が追及することは困難だ。コミックを娯楽目的で読む人もいれば、調査研究目的に使う人もいる。対象書籍を限定すれば済む話ではない。

これは今回の検討によって新たに生じた問題ではない。もともと有名無実化しているポイントなので、今回をきっかけに再度議論するのは大いに結構だが、今回の検討のせいでこれが問題になった、というわけじゃないので注意。

明治大学の今村哲也教授は「仮に蔵書の家庭への送信を始める場合、新たな著作権法の規定と民間同士の契約のどちらを優先するのかも検討する必要がある」と指摘する。

ごめん、これは私も詳しくわからないけど、著作権法に優先する民間の契約なんかなくない?
これはシンプルに各事業者は自分たちが持ってる契約を見直す必要が出てくる、という話で、「それが死ぬほど面倒だ」という話なら分かるが、「民間の契約を優先して著作権法は守りません」という話にはならないだろう。

ただし、文化庁はここについては詳細にヒヤリングして、この法改正によって各事業者に大きな負担を強いることがないよう配慮はしてあげて欲しいね。

専修大学の植村八潮教授は、著作物の一部分送信と引き換えに検討されている補償金制度について「著作権者ではない出版社にも還元されるかどうかが重要」と指摘する。

これは指摘の通り。報告書ではちゃんと還元されることになった。

書籍の価格と釣り合いがとれた補償金にするのは難しそうだが、著作権者側からは「絶版でなくても入手困難なら、図書館が送信した対価が少しでも入った方がうれしい」(漫画家の赤松健氏)との意見もある。

これは補償金の考え方に関わる問題で、そういう実情があることは文化庁も把握した方が良いな。ただし、今の考え方は「著作権・出版権に影響が出た分を補填する」という発想なので、「図書館利用者が入手困難資料を購入する代金を図書館が肩代わりする」といった発想での補償金制度にはならなさそうね。

日本図書館協会の小池信彦氏は「権利者側に『図書館だから無料で貸し、コピーするというのは理解できない』と言われたことある」と話す。ベストセラーの蔵書が多すぎると、出版社が図書館に抗議したこともある。

これも、今回の検討によって出てきた話ではないし、館内閲覧と貸出が混ざっているのでちょっと変な表現にはなってるけど、論点としては今後議論される価値はある。

我々が図書館で本を借りて読む。そして満足する。
これだと、権利者に1円も入らないでコンテンツだけが消費されている状態になる。冷静に考えれば、図書館というシステムはビジネスにとってかなり危険な存在だって話にはなるよね。
まあ、今回の報告書とは直接は関係ないんだけど。

以上!

こうして上記の協会の人とか教授とか、を槍玉に挙げる形になってしまったけど、彼らが何か悪いわけではないことは改めてちゃんと明言しておこうと思う。

より詳細な内容は報告書を読んでもらえればと思う(付属資料を除いて20頁程度)。

特に研究者界隈にとっては大きなメリットのある法改正なので、個人的には文化庁がんばれ~と思いながら法案提出を待とうかなと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?