逃避、そしてささやかなる抵抗
バス停まで向かう道すがら、ドライフラワーのごとく鮮やかに枯れた紅葉の葉が、廃屋のほとりに堆積していた。アラベスクさながらのその様子に、思わず感嘆する。そこは以前──というのは、私がこの土地に住むよりずっと前の話──蕎麦屋だったそうで、それなりに繁盛していたとのこと。気のいい老婦人が居た、と知人から聞いたことがある。しかし、今はもうすっかり物静かな廃屋で、蕎麦屋であった頃の良き喧騒などは見る影もない。
ところで、私が小説を読む理由は心を遠くに飛ばすためである。ただでさえ憂