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黄色いカーテン

 ぱっと目が覚める。頭がぼんやりとしていた。時間を見たくてスマホを探すと、充電が四パーセントなので慌てて充電器を差す。

 昨夜も遅くまで飲んでいたので十一時くらいかと思っていたが、まだ九時前。黄色いカーテンから透けて通る日光は優しい。ふわりとあくびをすると、あれ、と思う。

 彼からおはようが届いていない。

 付き合ったあの日から毎朝、彼は起きてすぐおはようを送ってくれていて、私はそれを見てはマメだなぁと思っていた。彼はだらしない私と違って早起きで、七時台に送られてきていることがほとんどだった。スマホを置いて目を瞑る。

 突然、ゆらゆらと揺れる感覚。

 全部夢だったんじゃないかと思う。自信がなくなる。二日連続で濃く入れたアルコールがまだ、私をゆらゆらと揺さぶる。

 もしかすると、ほんとうは彼と私は付き合ってなんていなくて、毎朝のラインもおはようもおやすみも全部夢だったんじゃないかと。手を繋いで歩いたのも、思いつく限りのデートプランをノートに書き出したのも、優しく微笑んだ目も、血管の浮き出た腕も長い指も柔らかな舌も、彼の口を伝ったハイボールの味も全部、私の作り話だったのではないかと。

 思考がぐらぐらする。ちょっぴり、涙が滲む。

 あくびとともに流れて、頬を伝う。

 優しくて何を話しても笑って受け入れてくれる、あの目。私は調子に乗ってなんでも話してしまう。今までの恋愛、失敗、くだらない文章の数々。彼が笑ってくれたのはうそか。ほんとうか。

 どうやら私は彼のことをとても気に入っているらしい。ほんとうであれと願っている。信じている。人を手放しで信じることは難しいし、苦しい。それなのに、私は彼を信じてしまった。

 全部、幻かもしれないのに。

 付き合ってしばらくは幻を見るものだと、私は二十余年を経て知っている。悪いところの思い浮かばない今はきっと、幻であって、またすぐに後悔する、信じなければよかったと思う、そう考えていなければさみしくてやっていられないような気がする。

 それなのに、私は彼を信じてしまっている。それがとても怖い。夢だったら、幻だったらどうしよう。

 目を開ける。涙の跡を拭う。

 日光がさらさらと優しい。もう一度、ふわりとあくびをする。

 スマホから大きな音が鳴る。慌てて緑色をタップ。

「おはよ」

 寝ぼけて電話しちゃった、と彼が笑った。

「具合はどう、俺はまだアルコール残っちゃってしんどい」

 大きなあくびの声が聞こえる。私は声が震えるのを抑えて言った。

「起きるの遅いよ」

 ごめんごめん、何かあった?と彼は言う。私はふふっと笑う。頭は重たくても、心は軽くなった気がする。だって、とりあえず今は、夢じゃなかった。

たける、おはよう」

 夢じゃない今日が始まる。明日もきっとまた、この人はおはようをくれる。夢じゃない一日を、一緒に始めてくれる。

 ずっとなんてわからないけど、これを毎日、淡々と繰り返せばいいね。

 起き上がってカーテンを開けると、眩い光に頭がくらくらして目を細める。柔らかなあくびを一つ。

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金とき
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