マガジンのカバー画像

夕方

25
夕方のお話です。 日が暮れていく色、一日が終わってしまう時間に、切なさや人恋しさを感じ、自分の想いに気付くようです。
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

誰そ彼

誰そ彼

 ドアから吹き込んだ風に流されて、髪の毛先が彼の肩をなぞる。手すりを掴んだ左手をびくんと震わせて、彼は用もないのに電子広告を見上げた。

 さっきから、行くぜ東北、ばかりが流れている。宮城、福島、山形。海岸の神秘的な風景も、色鮮やかなお社も、つやつやしたお魚や果物も、画面の中の、夢のお話。

 もっと華奢だったら良かった。狭い肩幅でこの隅っこにすっぽり収まって、彼を上目遣いで見上げられたら良かった

もっとみる