飲ませ上手なじゃこおろし
「帰ってくるならもっと前もって言ってくれればいいのに。言っとくけど、大したもんは何にもないよ。年寄りの暮らしだからね」
お決まりの「かあさん文句」をこぼしながら、母は発泡酒と「じゃこおろし」を出してくれました。
出してもらっておいて言うのもなんですが、まあ、じゃこおろしというのは手軽な料理です。なんたって大根おろしにしらす干しを乗せるだけですから。不味く作ろうってほうが難しい。大根が腐ってない限りはまず安牌。醤油のかけ過ぎにだけ気をつければよろしい。
しかし、酒飲み歴30年オーバーの母の手にかかると「じゃこおろし」も只者ではなくなるようでして、どうにも「飲ませ上手」な仕様になっているのです。材料は変えようがないですから、いたって普通の大根としらす干しとカツオ節なのですが、一味違う。
まず大根おろしが粗い。「みぞれ」というより「ひょう」に近い粒感。鬼おろしに近い感じでしょうか。そこにしらす干しがひとつまみ。仕上げにこんもりカツオ節。で、ポン酢で食べます。
これが、なんとも。
カツオ節の旨み、ポン酢の酸味に、ザクザクと心地よい歯触りの大根。しらす干しは、ほんのりとした苦味と塩気で大根の甘みを引き立てている。またたく間にビールが吸い込まれていきました。
前もって連絡してしまったら、この「じゃこおろし」は食べられなかったのかもしれない。ならば次回は、全くのアポ無しで帰ってみよう。
そんなことを考えたほど、見事な一皿だったのです。
きょうもお読みいただきまして、
ありがとうございます。
それでは、また明日。