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第5話:「見えない敵」

嵐が去り、火星の赤い空が再び穏やかに広がっていた。基地の周りには砂嵐によって溜まった砂があちこちに見られるが、全員が協力して片付けを始めていた。

「よし、この辺りの砂はもう片付いたな」アキラがスコップを使って砂を除去し、額の汗を拭いながら言った。

「私もそろそろ温室に戻って植物たちの様子を見てくるわ。酸素の生産はこの基地での最重要課題だからね」リナが静かに答える。カルロスもリナに続いて、「俺も一緒に行くよ。植物たちにミネラルを補給しなきゃならないから」と言い、二人で温室へ向かうことになった。


温室に到着したリナとカルロスは、植物たちの成長具合を確認していた。嵐が過ぎたあとだったが、植物は思ったよりも元気そうで、リナはほっと一息ついた。

「よかった…これで酸素生産は引き続き順調に進むわね」リナが微笑みながら植物たちに水を与えていると、カルロスが少し顔を曇らせた。

「でもさ、なんかやっぱり変な感じがするんだ。土の状態が、なんというか…少し変わってる気がしてさ」カルロスが小声でつぶやきながら、手元のセンサーで土壌をチェックしている。

「変な感じ?」リナは眉をひそめてカルロスを見つめた。「どういうこと?」

「うん…ちょっと言葉で説明しにくいけど、水分の吸収が悪いんだ。嵐の影響かもしれないし…」カルロスがそのデータをリナに見せる。

リナはデータをじっと見て、考え込む。「…確かに少しおかしいわね。この数値、通常より低いし、栄養素も減少してる」

「このままじゃ、酸素の生産にも影響が出るかもしれない。何とかしないと」カルロスは眉を寄せながら、深刻そうに考え込む。

「何か対策を考えましょう。まずはこのデータをオマールに見せて、対策を練る必要があるわね」リナが静かに言い、カルロスも頷く。


一方、サラは通信設備のメンテナンスを行っていた。嵐の影響で完全に途絶した通信を回復させたものの、まだ不安定な部分が残っていた。サラはその原因を探るため、モニターに表示されるデータを睨んでいる。

「静電気の影響だけじゃなさそう…何か他に要因があるのかも」サラは眉をひそめながら、通信回線の各部をチェックしている。

その時、オマールがサラの作業場に入ってきた。「サラ、調子はどうだ?」

「うーん…思ったよりも安定しないのよね。嵐の影響で静電気が溜まっているのは間違いないんだけど、それだけじゃ説明がつかないほどのノイズが入ってるの」サラは悩ましげに言った。

オマールはしばらく考え込むように腕を組んで、「他に何か原因があるのかもな…少し調査してみる価値がある」と提案する。

「そうね…私たちの環境はあまりにも特殊だから、原因を突き止めるのは簡単じゃないわ」サラは深く息を吐き、再び作業に取り掛かる。


その夜、全員が基地の共有スペースに集まっていた。リナが今日の温室の状況について報告を始める。

「植物の成長が思わしくないの。土壌の状態が変わってる感じがするし、必要な栄養素も少しずつ減少しているみたい」

「それはまずいな…酸素の生産に支障が出る可能性があるんだろ?」アキラが心配そうに尋ねる。

「うん、そうね。このまま放っておくと、影響が出る可能性があるわ。何とかして土壌の状態を改善しないと」リナが真剣な表情で答える。

「とにかく、まずはもっと調査をして対策を考えるしかないわね」カルロスがリナに続けて言う。

その時、サラが手を挙げた。「私も通信がまだ安定してなくて…何かが邪魔してるのは確かなんだけど、その正体がまだ分からないのよね」

オマールがサラに向き直り、「それも大きな問題だ。通信が安定しないと、地球との連携が取れなくなる。明日から優先的にその調査に取り掛かろう」と言う。

「わかった、全力でやるわ」サラは力強く頷いた。


翌日、サラとアキラは通信設備の調査を始めていた。二人は基地の外に出て、通信アンテナの各部を一つ一つ確認していく。

「アキラ、あっちのアンテナの電圧を測ってみて」サラが指示すると、アキラは「了解」と返事をして測定器を取り出した。

「…これ、変だな。電圧がやたら低いぞ」アキラが眉を寄せながらサラに報告する。

「やっぱりそうか…この部分、何かが電力を奪ってるみたい」サラはモニターに表示された数値を確認し、顔をしかめた。

「何かって…何だ?」アキラが尋ねる。

「まだわからない。でも、外部の要因だけじゃなく、内部の何かが原因かもしれないわ」サラは冷静に考えながら答える。

二人はその後も作業を続け、ついに通信設備の裏側に何か異常な接続があるのを発見した。

「ここに…何かが繋がってる?」サラは驚きの表情でアキラを見た。

「もしかして、これがノイズの原因か?」アキラはその接続部分を確認し、慎重に取り外すことにした。

「気をつけて。下手に触ると、設備全体に影響が出るかもしれないから」サラが注意を促すと、アキラは頷いて慎重に作業を進めた。


数時間後、二人は基地内に戻り、発見した異常な接続について報告するため、全員を集めた。

「通信設備に不審な接続があったんだ。これがノイズの原因だったみたい」サラが説明すると、オマールは驚いた表情を見せた。

「それは一体…何のためにあったんだ?」オマールが尋ねる。

「まだ正確にはわからないけど、おそらくは機器の誤作動か、誰かが間違って接続した可能性がある。でも、これで通信は安定するはずよ」サラが続けた。

「とにかく、通信の問題が解決して良かった。それで、次は土壌の問題に集中できるな」オマールが頷き、全員が安堵の表情を浮かべる。


その夜、再び全員が集まり、土壌の問題について話し合っていた。

「カルロス、リナ、土壌の組成をもっと詳しく調べてみる必要があるな。新たなミネラルや水分の補給が必要かもしれない」オマールが言う。

「うん、明日からすぐに調査を進めるわ」リナが頷く。

「植物たちは俺たちの未来だからな。なんとかしよう」カルロスも力強く応じた。

サラは笑顔で「私も何か手伝えることがあったら声をかけて」と言い、リナとカルロスも感謝の気持ちを込めて頷いた。

「そうだな。全員で協力してこの火星での生活をより良くしていこう。試練はまだまだ続くが、私たちなら必ず乗り越えられる」オマールが力強く言うと、全員が一致団結して次の挑戦に向けて心を新たにした。

次回、第6話に続く…。


第5話のエンディングと次回予告

次週は、土壌の問題を解決するための調査と、その中で見つかる新たな課題が描かれます。火星での生活を安定させるためにチームの協力が不可欠ですが、思わぬトラブルも発生。彼らがどのようにしてこれを乗り越えるのか、次回にご期待ください。

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