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第3話:「酸素を生み出せ!」
火星の夜。全員が宇宙服を着込み、外へと出る準備を整えた。エアロックが開くと、冷たい火星の空気が基地内に入ってくるように感じられた。薄暗い赤い砂の大地が広がり、その静けさの中に、かすかな異音が響いている。
「音の方向はあっちだな」オマールが指差し、皆がその方向に視線を向ける。アキラが慎重に先導し、チーム全員で音の出所に近づいていく。
「これって…風で何かが転がっている音?」サラがつぶやく。
カルロスが少し不安そうに頷きながら、「でも、なんか金属的な音だよな。何かがぶつかってる感じだ」と言う。
音の正体に辿り着くと、それは基地の近くに設置していた気象観測装置の一部だった。風で倒れ、砂の中で転がっていたらしい。
「なんだ、これかよ…ちょっとびびった」カルロスがホッと息をつく。
「まあ、原因が分かってよかったわ。オマール、これ元に戻せる?」リナが尋ねる。
「もちろんだ。簡単な修理で直る」オマールが観測装置を起こし、手早く確認していく。リナも手伝い、二人の作業で装置は無事に元の状態に戻った。
「よし、これでオッケーだな。全員、戻ろう」オマールが皆に声をかけ、一同は基地へと戻っていく。
翌朝、火星の日が昇り始めた。リナ、アキラ、カルロス、サラ、オマールの5人はそれぞれの仕事に取りかかっている。リナは昨日の観測装置の件で気が抜けているわけにはいかないと気を引き締めていた。
「さて、今日のミッションだが、酸素の生産を本格的に始めるぞ」とオマールが全員に話しかける。
「カルロス、君がその中心になるからな。植物による酸素生産の仕組みを整えよう」オマールがカルロスに目を向けた。
「任せてくれ、俺の植物たちにかかってるわけだね」カルロスは意気揚々と応じる。
「私もサポートするから、必要があれば声をかけて」リナがカルロスに笑顔を見せた。カルロスは「おう、頼りにしてるよ」と軽く答え、温室のある作業エリアへ向かう。
温室では、数種類の地球の植物が試験的に植えられていた。それらはカルロスが育てていたもので、火星の環境下でうまく育つかどうかを確認するための重要な実験だった。
カルロスは手元のタブレットを見ながら、植物の状態を確認している。しかし、思うように成長していないのが明らかだった。
「うーん、土壌の組成が予想と違うのかもな」とカルロスが一人でつぶやきながら、リナに連絡を取る。「リナ、ちょっと手伝ってくれないか?」
リナがやってくると、カルロスは植物の根元を指差して説明を始める。「ここ、どうも土の状態が思わしくないんだ。成長が止まってるみたい」
リナは真剣な表情で根元を観察する。「確かにね。土の水分が足りてないみたい。あと、ミネラルの補給も必要かも」
「ミネラルか…なるほど」カルロスはしばらく考え込み、「ミネラル補給剤を加えてみるか」と提案する。
「いいわね。それから、温度管理も見直した方がいいかもしれない」とリナが付け加える。
「よし、それじゃあやってみよう」カルロスとリナは協力して、植物に必要な環境を整え始める。
その頃、サラは通信設備のチェックを行いながら、基地全体のシステムをモニタリングしていた。突然、画面に異常な数値が表示され、眉をひそめる。
「なんだこれ…?」サラはすぐにアキラに連絡を入れる。「アキラ、ちょっと見てほしいんだけど」
アキラがサラの元に駆け寄り、モニターを覗き込む。「通信システムに異常が出てるな。何かのノイズか?」
「電磁波の影響かも。でも、これだけ大きなノイズが出るのは珍しい」サラは不安そうに画面を見つめている。
「ノアに聞いてみたらどうだ?彼の経験なら何か分かるかもしれない」アキラが提案する。
「そうね、そうしてみる」サラはノアに連絡を入れることに決めた。
ノアの声が通信から聞こえる。「おー、サラか。どうした?」
「ノア、通信システムに大きなノイズが入っていて…もしかしたら、電磁波の影響かもって思ってるんだけど」サラが説明すると、ノアは少し考えるような間を取った。
「うーん、なるほどな。火星は砂嵐が多いからな、静電気が原因かもしれないぞ。少し調整をしてみるといい」ノアが助言する。
「静電気か…ありがとう、やってみる」サラは感謝を込めて返事をし、ノイズ除去のための調整に取りかかる。
温室のカルロスとリナは、ミネラル補給剤を追加し、温度調整を終えた。カルロスが植物の葉を軽く撫でながら、「さあ、これで少しは元気になってくれよ」と呟く。
「これで様子を見ましょう。きっと大丈夫よ」リナがそう言うと、カルロスは笑顔で頷く。「リナ、ありがとうな。お前がいなきゃ俺、一人でどうにもならなかったよ」
「当たり前でしょ、チームなんだから」とリナは少し照れたように微笑んだ。
その夜、全員が基地の共有スペースに集まっていた。カルロスは温室の結果について報告する。
「今日は植物の栄養状態を改善したから、明日にはもっと成長するはずだ。それが成功すれば、酸素生産の目処も立つ」
オマールが頷き、「そうか、カルロス。よくやったな。これが成功すれば、私たちの生活がずっと楽になる」
サラが続けて、「それと通信のノイズの件、ノアが言ってた通り静電気が原因だったみたい。調整して大体解決したから、通信は安定してきてるよ」と報告した。
「よかった。通信が安定すれば、地球との連携もうまくいく」とアキラが安堵の表情を浮かべる。
その時、ノアの顔がモニターに映し出され、彼がにやりと笑いながら言う。「おーい、若者たち。調子はどうだ?」
「ノアさん、こっちは順調だよ。おかげさまでね」とカルロスが言うと、ノアは首を振りながら冗談を言う。
「おいおい、それじゃ俺の助言が役に立ったってことか?それなら報酬は大盛りのピザでも送ってくれよ」
サラが笑いながら、「火星にピザ配達するのはまだ無理だね」と返す。
「まあ、次に地球に帰ったら考えておくよ」とノアが答えると、皆が笑い声を上げた。
その翌日、カルロスとリナは温室に向かっていた。カルロスは少し不安そうな顔をしているが、リナは「大丈夫よ、信じて」と励ました。
温室の中に入ると、二人は植物たちが少しずつ元気になっているのを見て顔を見合わせる。
「やった、成長してる!」カルロスは手を握りしめ、嬉しそうに笑う。
リナもほっとした表情で、「これで酸素生産が進むわね」と頷く。カルロスは「やっぱり、俺たちのチームワークは最高だな」とリナに親指を立てた。
「さあ、次はこの調子で酸素の供給量を増やしていきましょう」とリナが言い、二人は再び作業に取り掛かる。
その日の夕方、カルロスが植物たちの育成を続ける中、ふと窓の外を見ると、遠くの空にまた赤い砂が舞い上がっているのが見えた。
「また嵐か…」カルロスがつぶやき、すぐにオマールに連絡を入れた。「オマール、砂嵐が来るみたいだ。準備をしないと」
オマールが応答し、「よし、全員に知らせておく。全ての機材を安全に保管しろ」と指示を出す。
一同がそれぞれの持ち場で準備を進める中、再び火星の大自然が彼らに試練を与えようとしている。カルロスは植物を守るため、リナと共に温室を強化する。嵐が迫り来る中、彼らの絆はさらに深まり、次の大きな挑戦へと進んでいく。
次回、第4話に続く…。
第3話のエンディングと次回予告
次週は、再び襲い来る砂嵐にどう対処するのかが描かれます。火星での生活は厳しく、酸素供給の未来を賭けた挑戦が続く中、彼らはどのようにして嵐に立ち向かうのか。火星の環境の過酷さに直面し、チームの絆がさらに試されることになります…。