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「買取の仕事は想いを買うこと-古本屋の小さな奇跡-」

古本屋の仕事は「買取」が命である。そんなことは、この業界に足を踏み入れた当初から身に染みている。そして15年前はまさに「買取大戦争時代」だった。いや、「大航海時代」と言うべきかもしれない。  
そう、あの頃は『ワンピース』が流行っていて、少しでも高く買い取る店を探して、何軒もはしごするお客さんが珍しくなかった。今はなき高円寺のエンターキング、野方のドラマ、沼袋のブックアイランド、練馬のブックオフ……。各店がしのぎを削り、激しい競争が繰り広げられていた時代だ。 そんな中、買取の相談に訪れるお客さんの中には「本が捨てられない」という理由で持ち込む人もいる。特に高齢の方々に多いのだが、相談内容の定番は百科辞典や図鑑の処分についてだ。しかし、残念ながら古本屋は百科辞典を買い取ることができない。これは当店だけの話ではなく、日本全体の問題なのだ。  百科辞典は高度経済成長期、家の本棚に「箔」を付けるために全30巻セットなどをボーナス一括払いやローンで購入されたものだ。当時は営業マンが団地を回り、巧みな話術で契約を取っていた。
実はあの全裸監督の村西とおるの独特な話術は訪問営業のトップセーラーとして培われたものだったりする。(店長が15年前に読んだ心のバイブル。経営者としてのアイデア、行動力、生命力に感嘆した本↓)

だが今、そんな30巻の本を眺める時間がある現代人はいない。加えて、百科辞典は中身が更新される運命にある。事実が変わればその役割は終わり、実用書としての価値を失ってしまうのだ。もはや「本の形をしているが、本ではなくなってしまう」という悲しい現実がそこにはある。  
さて、話を戻そう。  
本を捨てられないと言って相談に訪れる方々の多くは、本に対する善性を持っている。それは、本をただの物ではなく、何か特別な存在として捉える心だ。そんな中、まるで本の妖精かと思うような人が現れた。  
ベトナムから4日前に一時帰国したお客さんが、当店に本を売りに来てくれたのだ。日本で購入した本をベトナムに持ち込み、大切に読んだ後も「捨てることができない」という強い想いを抱き続けていた。その想いを託されるようにして、本を買取させて頂いた。いや、買取したのは「その想い」そのものだったのかもしれない。

おかえり‼️本の里帰りダ‼️

そして、そのお客さんからもう一つ聞かれたことがある。  
「この猫のシャツ、ありませんか?」  
なんと、当店のツイートをベトナムから見ているという。驚きながら店内を探し、なんとか見つけて出してみたが、結局そのシャツはスルーされてしまった。思い通りにはいかないものだ。だが、SNSを通じて海外にも情報が届き、本に対する畏敬の念が繋がったのはリアル店舗ならではの醍醐味だと感じた。  
そして同時に、消えゆく古本屋の店舗への想いも胸に去来する。  
そんな複雑な感情が交差した一日だった。  

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