必ず、また会える

年に一度の夏祭りの日。

あ……

え……?

家族連れでごった返すお祭りで、幼馴染の僕と彼女は、丸々一年ぶりに顔を合わせた。偶然のようで、必然のようで……まあ、それはどちらでも良いのだけど。


少しだけ、人混みから離れて、僕たちは近況を話し合った。

どうやら彼女は地元の短大に進学したようで、相変わらず色白で可愛くて、そして……彼氏はいないとの自己申告も得た。
高3の夏以来、一年ぶりに言葉を交わす彼女は幼馴染で同級生。同じブロックに家があった僕たちは、ほんの一週間でも顔を合わせないなんてことは一度もなかった。それが、あの日以来丸一年も……。




会いたかった……

そう言って、彼女は少し涙ぐんだ。

それから、懐かしい高校時代の思い出なんかを話しながら、出店の並ぶ道路脇の、少し静かな公園のベンチに腰掛けた。

この位置からは花火がよく見えることを僕たちは知っていた。打ち上げ場所までに障害物がなく、まっすぐ見渡せる。町内の人にも以外と知られていない穴場なのだ。


そういえば、高3の時は同じクラスになって嬉しかったなぁ……君には「家が近いのにクラスまで同じかよ」って言ったけど。

そんなセリフまでよく覚えてるね? 私はもちろん覚えてるんだけど。嬉しくないんだーって、ちょっとショックだったもん。

いや、だからだよ。思ってもないこと言っちゃって、怒ってるかなってずっと気にしてたんだよ。だからいまだに忘れない。

うそうそ、別に大丈夫だったんだよ。そういうこと言っちゃうヤツだってわかってるし。ホントは私のこと大好きだって分かってたし。告白はしてくれないけどね。

結局、あのセリフをフォローすることもできなかった……よね……。でも、僕が君のこと好きだってバレてたのはちょっとびっくりだな。態度に出ちゃってた?

出てた出てた。ホントに、いっつも。好き好きオーラ出てたじゃん。それはそれで、私は嬉しかったけどな。

いや君だって結構態度に出てたよ。僕のこと好きなんだって確信あったもん。実はね、僕さ、去年の夏祭りの日にちゃんと告白しようって、決めてたんだよ。

ほんと? その割にはあの誘い方? 「祭り一緒に行くヤツいなかったら俺がいってやってもいいぞ」って。今どきラブコメでもそんなセリフないよ。

一緒に行くヤツいないって分かってたからだよ。余裕だよ、余裕。君だって、「しょーがない、君でいいか」っつってたじゃん。


二人でひとしきり笑ったあと……どこからともなく重い空気が流れ込んできて……二人を沈黙にいざなった。


結局さ……



沈黙をやぶったのは僕のほう。

あれが最後の会話になっちゃったね。告白もできずじまいで……


一年前の夏。
夏祭りの前日に起きたその事故は、地元のテレビニュースを騒がせるくらいには大きなもので……
二学期になると、僕のクラスの一番右後ろの席には、ピンク色の一輪挿しが置かれることとなった。


僕ね、もう二度と君に会えないって、一生分泣いちゃったよ。涙って枯れちゃうんだよな、ほんとに。あれからは一度も泣いてない。

そうなんだ……私は、今でも泣いちゃうことがあるよ……。ずっと、ずっと会いたかった。





ドォォォーーーーーーン!!!!

花火が始まった。

私……そろそろ……行かなきゃ…… 

そう言って、高く上がった花火を見上げてから、彼女は僕の目を見た。

ねぇ、言って? 一度でいいから、ちゃんと言って欲しいの。去年言ってくれるはずだったんでしょ?

え? 今? 急に? なんか、言ってって言われて言うのってハードル高くない?

いいから言って。お願い。じゃなきゃ、私……。とにかく、聞かせて欲しいの。お願い……

透き通るような白い頬を、涙が伝った……

僕は、じっと彼女の目を見て、深呼吸をした。あれから1年。僕だって男らしく成長したんだ、ビシッと決めよう、と決心した。


僕は……僕は君のことが、【ドォォォーーーーーーン!!!!】き……だ!

今日一番の大音響に、二人は思わず空を見上げた。

嬉しい。やっと聞けた……。嬉しい……。

パラパラと瞬き消えていく火花を眺めながら、僕は聞いた。

また、会える……よね?


彼女はどこか悲しげで、それでいてとても優しいほほ笑みをたたえて……

俄かに真剣な目をして、まっすぐに僕の目を見た。

必ず、会えるよ。必ず。


その言葉が嬉しかったのか、いよいよこのひとときが終わってしまう寂しさなのか……僕は、一年ぶりに泣いた。号泣した。

入り混じる感情に揺さぶられながら、ぼやけた視界で大きくはじける花火の音を、ただただ聴いていた……






どのくらい泣いてたろう。


気が付けば、彼女の姿はもうなかった。



花火も、人混みも、何もかもが消え、ただ少し霞のかかった、永遠に続く真っ白な空間に僕だけがぽつんと座っていた。

その静寂の中で、ぼくは呟く。


「必ず」


彼女は確かにそう言った。
乾きかけた涙をぬぐい、確かめるように呟いてみる。


「必ず、また会える」





年に一度の夏祭りの日。


彼女がその強い想いを天まで届けてくれるなら、僕はまた会いに行くことができるんだ。

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