ブリュレ。
"ツンデレ女子"
皆さんはこの言葉をご存知だろうか。
いや、答えていただかなくても結構だ。
なぜなら。
「ごめん瞳月!…待った?」
「待ったわ!もっと早よ来てーや!」
今から存分にお見せするからである。
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「なぁ、ごめんってー」
「もう知らん!」
俺の前をスタスタと歩く小さな女の子は山下瞳月。
俺の可愛い可愛い彼女である。
「ごめんな、一人で寂しかったやろ?おーよしよし。」
「ちゃうわ!もう○○の事なんて嫌いや!」
彼女の第一声を覚えているだろうか。
あの言葉の裏には、「寂しかった」というメッセージが隠されているのだ。
そして2人は近くのカフェに訪れる。
「なぁ、瞳月ってホンマに可愛いよな。」
「はぁ!?」
瞳月は顔を真っ赤にしてわかりやすくあたふたしている。
「あ、照れとる?」
「て、照れてへんわ!こっち見んなアホ!」
定期的に褒めるとこのような可愛いリアクションも取ってくれる。
付き合うまでは本当に大変だった。
嫌われてるんじゃないかと思うこともしばしばあった。
でも、ただ素直になれないだけで心の中では何を考えているのか逆にわかりやすいと気が付いてからは。
その言葉や仕草ひとつ取っても愛おしくなってきてしまった。
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「○○は何食べるん?」
瞳月は決まって俺の食べたいものを先に聞く。
「俺はこれ。すぐ決まったわ。」
「え?え?早ない?しーまだ何も決まってへん!」
いつも思う。
まるで俺達は正反対で。
故に喧嘩だっていつも絶えない。
好きな物だって違うことの方が多い。
それでも、こうやって愛おしさが無くならないのは。
瞳月が好きな物なら俺も好きになれるから。
俺の人生は人より好きが2倍だ。
「焦らんでええよ、ゆっくり決めて。」
「しーも○○のやつが良かった!」
「ほなそれでええやん。」
「なんか同じの頼むなんて仲良しみたいでイヤや!」
「え〜、じゃあどうするんよ。」
「べ、別に同じのんでもええで?」
「はいはい。あ、すみませーん!」
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照りつける日差しと共に。
瞳月への愛おしさがまた一つ募っていく。
どれだけ瞳月が泣いていても、怒っていても。
一番近くにいたいと思えるのは。
瞳月からの愛情が絶え間なく感じられるのと。
瞳月と居る時の俺が一番好きだから。
「結構人おるなー、はぐれたらアカンし手繋いでもええで?」
瞳月はそう言って手を差し出す。
数え切れない程に手を繋いだのだから、言葉なんていらないと思うのに、瞳月はいつもわざとらしく言う。
でも、瞳月の言葉は魔法のように俺の胸を温かくする。
「はいはい、おいで。」
「へへへ。」
確かに言えることは、出会った時よりも手が馴染んでいるという事だ。
それはまるで、世界の中心が手と手の中にあるみたいに。
「ほんでなー、優がずっと同じこと言うとるからなー、しーもなー。」
楽しかったことを小さな身体全部を使って伝えようとしてくれることも。
「○○なんて嫌い!もう知らん!」
少し意地悪をするだけで訝(いぶか)しげな表情でこっちを睨みつけてくることも。
その全てがいじらしくて愛おしくて。
「嘘、やっぱり嫌いじゃない…」
一度殻に閉じこもってしまうと、なかなか出てきてはくれない。
でも、ゆっくりとその堅い殻を破ってやると。
甘い甘い世界が顔を覗かせる。
それはまるで、さっき2人で食べたクリームブリュレみたいに。
胸を焦がす二人の毎日は。
あまりに脆くて、強くて。
ちょっぴり危なっかしい時間が流れる。
「瞳月、好きやで。」
俺はポツリと呟く。
「そ、そんなんいちいち言わんでええねんアホ!」
そう言いながらも瞳月は手を強く握り返す。
もしも、今日という日が誰の記憶からも剥がれ落ちたって。
2人で笑い合った今日という日を。
俺は絶対忘れないから。
だから、明日の中にも変わらず彼女の姿がありますように。