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MBAや大企業経験が事業承継に適用しない問題

よく、「MBAの理論とか日本の中小企業に当てはまらない」「大企業と中小企業にはギャップがある」と言われます。特に、大企業や、大企業でなくても、創業ベンチャーなどいわゆるMBA的理論で動いている世界の人が、実家の中小家業に戻ったとき、思ったように力が出せない、というのはよく聞く話です。

そこで、私自身、MBAホルダーであり、家業を継いだ事業承継者ですが、私自身や、私の周囲を見渡しての経験から感じたことを書いてみたいと思います。

議論を整理するため、ざっくりを承知の上で、大きく、「大企業内新規事業」「創業スタートアップ」「中小企業事業継承」の3カテゴリに分けていきたいとおもいます。

マネジメントの違い

まずは、マネジメント・業務の仕組みの完成度に違いがあります。大企業であれば、間接部門もしっかりしており、承認フロー、職務分掌も、それなりに明瞭なルールの下に運用されていますし、千人、万人が組織として動くこと自体、洗練されたマネジメントシステムであり、基本的に仕事はそれに乗って流れていきます。1プレイヤーとしてみた場合は、マネジメントシステム作りは0→1というより、出来上がった10を11,12にしていく感じになります。

一方、創業ベンチャーの場合、マネジメントシステムを1から作ることになります。創業者がそれなりの企業で勤務後独立したり、あるいは投資家などのフォローがあったりで、マネジメントシステムを経営者主導で自分の目的に応じて導入できます。まさに0→1の世界です。

さて、中小企業の事業承継、これは、今まで既に仙台が自分の好みに合わせて創り上げてきたマネジメント、仕組みであり、価値観でありがあるわけです。多くの場合、それは大企業のそれと異なります。一旦、それを受け入れて進まなければいけない。しかも、大体の場合、それが中小企業の個性でもあるのですが、経営者の価値観が表出した独特のものが多いです。

大企業が10から11,創業ベンチャーが0から1、とするなら、強いて言えば『「亜」を「あ」』にする、みたいな話です。そもそも数字じゃなかったりします。

人材の違い

大企業で新規部門を任されたとき、そもそも大企業に入社している時点で一定の人事の目をすり抜けた人材であり、さらに、そのなかで、新規事業に対して相応のスキルを持った人材がアサインされています。その新規事業が体の良いリストラ部門とかでなければ、普通は適材適所をします。

創業ベンチャーの場合は、創業期にそこまで優秀な人材が来ないにしろ、「自分で選んだメンバーでスタートできる」のが最大のメリットです。価値観や自分に不足する能力、求めるスキル、完全に要求通りの人材でないにしろ、少なくとも『自分で選び取った』人間でチームを組んでスタートすることが出来ます。

対して、中小企業の事業承継では、既に出来上がった組織に入り込むことになります。自分が採用に関わった人材が会社の過半数になってくるのは、かなり時間が必要です。自分で組織を作るのではなく、与えられた組織を活かす、という発想が必要になります。

大企業での勤務を終えてから中小企業を継いだ方が書かれた事業承継についての自伝本を読むと、かなりのケースで、リストラをして、古参に去ってもらい『血の入れ替え』を経験していることが書かれています。

これは、創業ベンチャー型のノウハウを事業承継にそのまま使ったと解釈できます。そして、本を書くところまでその後状況を取り戻せた方の成功は賞賛に値しますが、やはり経営方針を巡る大規模なリストラは、いわゆる『お家騒動』であり、それが深い傷を残したり、時に致命傷になるケースも、当然あります。

事業分野の違い

大企業の新規事業部というのは、社内ベンチャー公募みたいなケースもありますが、大きくは、既存事業に紐付いて会社としての方針決定があり、それを受けて部門が立ち上がるのが通例ではないでしょうか。

一方、創業ベンチャーの場合は、当然ながら創業者が『これで起業したい!』という意思によって事業分野が選ばれ、会社が設立されます。

中小企業の事業承継は、当然ながら事業分野は家業として受け継がれてきたものになります。その意味では、一番選択肢が少ないというか、そもそも選択の余地がないものです。ただ、一つの事業が形を変えずにずっと生き残り続けることも難しい。一般に企業の寿命が30年と言われるのもそこです。最初は、同じ事業を受け継いでも、どこかで、『自分の意思で』ギアチェンジ、ピボットをしていかなければいけない。そこで決断と覚悟が出来るか、というところ。『与えられたものをやりきること』と『自分で考えて創めること』の両方が求められています。

視野の長さの違い

自分が経営に関わるタイムリミットについて、大企業の新規事業部であれば、将来独立するとかのイレギュラーはあるものの、人事的な任期中が自分のコミットする期間となります。

創業ベンチャーの場合でも、自分が60歳、70歳になるまでその事業をすることをイメージする人は少ないように思います。少なくとも私の周囲では余り聞かないです。ありがちですが、いわゆる上場ゴール、その後はまた違う事業に挑戦したい、そういう視野の方が多いように思います。つまり、最後を自分で決定できますし、自然に、それを前提にして戦略やマネジメントの仕組みが組織に組みこまれていくように感じます。

それに対して、中小企業の事業承継は、次の世代が継ぐまで、数十年単位のタイムスパンでものを考えます。ひょっとすると、次の次の世代、自分が死んでからのことも考え、立地する地域や社会も広く捉えたステークホルダーにとの関係を重視して事業を展開していく、そういう広いイメージになることが、特に地域に密着した中小企業の事業承継には多いように思いますし、当然広くなればなるほど、考えるべきステークホルダーは多様なものになっていきます。

まとめ

事業承継マトリックス

今まで書いたことを図にまとめるとこうなります。

最近はファミリービジネスを対象にしたMBAもありますが、MBAのプログラムや、まちにあふれる経営学の理論は、基本的には大企業の事業部長か、創業ベンチャー社長か、を暗黙のうちに想定しているものが多いと感じます。

そして、冒頭の問いに立ち戻ると、上図のような差こそが、大企業の経験や、創業ベンチャーの経験、一般的なMBAや経営学の理論が通じづらい理由に思います。

通じないとなったときに、「新事業に進出して社員も入替える」と、「やってきたスキルが通じるように、そもそもの環境を変えてしまう」のか、「やってきたスキルが、そのままでは通じない理由を把握して、現状を踏まえて応用していく」のか、

それは、継承者、後継者の価値観だと思います。

今日の話はここまで。

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