巨木
樹冠が球状の、美しい常緑の巨木。
どこからでも、この形を保って、よく見える。
何キロも離れた早瀬大橋からでも、
キノコのようなその姿が、
北の空に、シルエットになって見えたりする。
何百年経っているのだろうか。
長い年月、
幾度も繰り返されてきた日照りの夏の暑さ、凍てつく冬の寒さ、
そしてまた、根こそぎ倒すような大嵐にも耐えてきた。
一体その根は、
どのくらいの深さまで達しているのであろうか。
おそらく、木の高さ以上、
それに、樹冠の容積以上の根が、
地下深くに張り巡らされているのかもしれない。
一般に、目に見えるものは、ほんのわずかで、
目に見えないものが、大多数を占めているのではなかろうか。
例えば、
この宇宙の、よく知られている物質は、
ほんの数パーセントにすぎず、
他の大部分は、ブラックマターといって、
まだほとんど知られていない暗黒物質もしくはエネルギーで、
満たされてあるらしい。
確かに、我々自身を振り返ってみても、
よく知らない、
目に見えない、内臓諸器官、筋肉、骨格、
全身に張り巡らされている血管や
神経系統その他によって
支えられ、生きている。
目に見えるものは、ほんのわずかであり、
ほとんどが目に見えないもので覆われ、
その大部分によって
目に見えるわずかなものが、
支えられ、生きている。
と言えそうである。
傍まで行くと、
この巨木、
幹の驚異的な太さ、そして見上げるほどの高さは言うに及ばず、
全視界が、無数の木の葉で領され、
森のような梢が、
天から圧し被さってくる。
想像を絶するその全重量、
それを支えて生きている木、
この地下深くに、日夜営まれている
目に見えないものに想いを致しながら、
問えど、答えぬ
物言わぬ木だからこそか、
圧倒するほどの荘厳な神々しささえ感じた次第。