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初めての会社案内づくりで辿り着いた、「会社」と「社会」が出会う場所。

昨年末から会社のリニューアル作業を着々と進めている。デザイナーである妻の助けを借りながらさまざまなデザイン物を制作し、このほどようやく念願の会社案内が完成した。公私一体となった会社のリブランディングの全貌を、ここに記録しておきたいと思う。


破竹の勢いで進んだデザイン刷新

まずは長らく使ってきたロゴを一新。名刺も変え、年始には数年ぶりに取引先に紙の年賀状も送った。妻の発案で、ホログラムのパッケージにカードを封入するという凝ったデザインの年賀状になった。

年賀の挨拶や実績紹介など、3種類のカードを封入
活版印刷で製作。グレーのボード紙にブルーの箔押しを施した

年が明けてからHPのリニューアルも行った。日頃から業務で使っているNotionをベースに自前で制作。シンプルなサイトが出来上がった。Notionで構築したことで、実績の追加などの作業もしやすくなった。

加えて、長らく休止していた月1のニュースレターもこのタイミングで復活させた。自社の実績やインフォメーションだけでなく、「より良いキャスティングの探求記録」と称して、独自にキャッチアップしたエンタメの最新潮流を月末に送っている。

2月からは初めてPodcastに挑戦。ゴールデンウィーク期間を除き、今のところ週1更新をキープできている。フォロワーは依然として少ないものの、Xでのポストから思わぬ広がりを見せる回もあり、会社と関係者との新たな接点づくりが期待できそうだ。


念願の会社案内がようやく完成

各種リニューアルの最終工程が、創業後初となる会社案内の作成だった。妻と頭を悩ませながら数々のブラッシュアップを重ね、先日ようやく完成。会社として伝えるべきインフォメーションとエモーションのバランスを意識し、結果的に10ページほどの冊子に仕上がった。

実は新しい会社案内の構想は昨年初頭からあった。しかし当時子どもは0歳。育児の都合でどうしても手をつけられずにいた。昨年秋に奇跡的に保育園への途中入園が叶い、ようやく本格的に制作を開始。会社案内づくりは、仕事と育児を共有する僕ら夫婦にとって、公私を横断する一大プロジェクトだった。

サイズはA4。外装は名刺と同じグレーのボード紙
顔料によって独特のブルーを表現。文字の視認性を確保しつつ、ロゴの存在感ももたせるため、控えめなエンボス加工を施した
会社のストロングポイントを3つに集約。項目ごとにイラストも掲載
過去実績の中からタイプの異なる11作品を選定。キャスティングの課題と背景を丁寧に記した
少し見えにくいが、黄色のミシン糸によるミシン綴じを施している


なぜこのタイミングで会社案内を作ったのか


創業8年目という中途半端な時期にも関わらず、なぜ僕は会社案内を作ろうと思ったのか。その理由は、ここ数年で起きた会社を巡る状況の変化にある。

創業当初は大手の広告代理店・広告制作会社の2〜3社が売り上げの6割程度を占め、残りを中小さまざまな広告制作会社の売り上げが支えていた。つまり売り上げのポートフォリオのバランスがある程度保たれ、リスクを分散できていたのだ。それが徐々に1社の広告代理店との取引が拡大し、現在では売り上げの過半数を同社が占めている状況になっている。パイプが太くなったという見方もできるし、同社の仕事に充実感も感じているが、1社に依存するあり方は経営として些かリスキーではある。

このような歪なポートフォリオになった原因は、間違いなく営業活動の鈍化にある。それを招いた原因は主に3つ。他事業へのリソース投入、子育て、そして怠慢だ。三つ目は自業自得でしかないのだが…。

一番影響を与えたのは、他事業へのリソース投入だ。紆余曲折あって4年ほど前からまちづくり関連の事業に取り組んでいるのだが、ここに公私ともにエネルギーを割きすぎてしまった。逆にそれくらいのエネルギーをかけたからこそ得られたものもあったのだが、事業の観点で見ると必ずしもコストパフォーマンスの良いものとは言えなかった。この事業に付きっきりになってしまったことが、本業の営業活動を鈍らせる直接の原因になっている。契約終了までまだしばらくあるものの、ここ1年でやっと業務の地盤が固まり、少しずつ負担も軽減されつつある。

もう一つは妊活と子育てだ。2021年から妊活を始め、2022年に第一子が誕生。妊娠や育児の負担を妻だけが負うのは間違っていると思っていたし、僕自身が子育てにフルコミットしたいと以前から考えていたこともあり、現在でも夫婦揃って子ども中心の働き方をしている。

この間、決して経営が悪化したわけではない。むしろ業績は毎年少しずつ伸びている。けれど、それも未来永劫ではない。新たなアクションを起こす必要に駆られ、たどり着いたのが会社案内という物理媒体の制作だった。このご時世、紙の冊子を作ることに否定的な向きもあるだろうが、直接顧客のもとに足を運ぶ口実としては至極真っ当なアイテムではある。また、会社案内を作ることは自社の価値を棚卸しするということであり、それはきっと今後の指針づくりにも役立つだろうという考えもあった。

試行錯誤のリブランディング


ここまでリニューアルの遍歴と背景を駆け足で紹介してきた。冒頭で紹介した各種制作物は、もちろん行き当たりばったりで作ったわけではない。会社の新たなブランディングの方針に基づいて作られている。制作作業の手前で、いわゆるリブランディングを行ったのだ。リブランディングとは言いつつ、そもそもブランディングができていたかも疑問で、実質これが初めての正式なブランディング作業だったといえるかもしれない。

ブランディングに関してはズブの素人である。まずは勉強せねばと、世に溢れるさまざまなブランディング本を読み漁った。その結果、以下の本が一番シンプルで汎用性があり、なおかつ自分の肌感覚にも合う内容だったため、書かれていることをそのまま実行することにした。

本に付属するテンプレートがとてもわかりやすく、欄を埋める形でブランディングに必要な要素を揃えて行った。

もともと好きだったR2-D2が自社のパーソナリティにぴったりだと気づく
会社案内の挨拶文でもR2-D2を登場させた

その中で特にターニングポイントになったのが、自社のポジショニングを整理するパートだった。「アクティブ/パッシブ」「マーケティング/クリエイティブ」という軸を見出したことが、後の作業の突破口になった。

ビジネスモデル上、独自性を発揮しにくい業種ゆえに、ポジショニングが重要だと考えた

ポジショニングの設定によって「発掘・発信・発想」というキーワードも生まれ、それらをもとにロゴのリニューアルに取り掛かった。

従来のうさぎモチーフと、企業カラーであるブルーを継承すること。この二つを条件として妻に発注。試行錯誤の結果、どこにでも出向くフットワークの軽さや、情報が伝播していく様を表した、Wi-Fiマークのようなうさぎが誕生した。カラーは先進的な印象を与えるビビットなブルーを採用。以降、僕らはこの色を"キアズマブルー"と呼んでいる。ロゴとキーカラーが決まった段階で、前掲の名刺やその他のデザイン物を制作していった。

ある程度ブランドの方向性が固まってきた年始の段階で、4年ぶりの仕事依頼noteの執筆も行った。


見つからないパーパス

ブランディングで避けては通れない道。それは、ミッション・ビジョン・パーパスの設定だ。むしろこれらがすべての設計図といっても過言ではないだろう。そもそも何のために自社が存在しているのか。本質的にどんな価値を提供して、どのような未来を実現したいのか。一見抽象的ではあるが、それゆえに本質的なこれらの問いに取り組むことで、事業においてもデザインにおいてもブレない軸が見えてくる。

ミッションとビジョンの策定は意外と容易だった。先述の「発掘・発信・発想」は自社が長らく取り組んできたことで、ミッションと言い換えても良いフレーズだ。また、アクティブ×クリエイティブというポジショニングから、「クリエイターの創造性を刺激する会社になる」というビジョンもすでに見えていた。

問題はパーパスである。社会における自社の存在意義。5W1Hでいえば、Whyに該当する部分だ。これがなかなか見つからなかった。

業界の中だけを見たら、出演者のアサインを専門に扱うキャスティング会社には一定の存在価値がある。けれど、社会にとって本当に必要な会社なのかと言われると、どうにも自信が持てない。いったい僕は、社会にどんな貢献をしているのだろうか。貢献どころか、むしろ社会を蝕んでいる側なんじゃないかと、昨今の広告や芸能の炎上を目にするたびに考えていた。自分の仕事が回り回って誰かを傷つけているかもしれないと思うと、胸が痛んだ。

長らく続けてきた仕事への誇りが揺らいでいた時期に、前述のまちづくり関連の仕事に出会ったことで、いっそう本業の社会的意義がわからなくなってしまった。直接的なソーシャルグッドを生み出すまちづくりと比較すると、どうしても広告や芸能の仕事がソーシャルバッドな世界に見えてきてしまう。

これでは、パーパスなど見つからなくて当然だ。会社と社会とのつながりを、完全に見失っていたのだから。順調だったリブランディングは、ここに来て大きな壁にぶつかってしまった。

社会の想像力を更新する


それでもちゃんと転機は訪れた。ゆっくりとした歩みで、一つの言葉を運んできてくれた。

「想像力」

身近過ぎてかえって見えなくなっていたこの言葉が、パーパスを考える上で大きな糸口になっていった。

そもそもキャスティングは、広義の「表現」に携わる仕事だ。CMは企業メッセージの広告表現だし、出演者たちは演技やルックスを通してそのメッセージを表現する。広告表現の要素は出演者だけではないが、おそらく世の中のほとんどの人がタレントやモデルの表現を通して広告の印象を受け取っている。

そのような見方をするならば、業界の商流において最下流に位置するキャスティング会社こそが、逆に表現の上では最前線に立っていると言えるのではないか。キャスティング会社は、人の心の琴線に一番最初に触れるセクションを担っているのではないだろうか。そんな仮説が浮かび上がった。

そして人が心を動かされるとき、そこには想像力が働いている。目の前にないものを補い拡張する想像力によって、かつて経験した感情が呼び起こされたり、予想外の感情が引き出されたりする。感動は想像力によって生まれ、こと人物が登場する映像表現においては、出演者の演技が想像力に大きな影響を与えている。この観点に照らし合わせると、キャスティングは社会に新たな想像力を投げかける仕事なのではないか?という考えにたどり着いた。
大仰な物言いにはなるが、普段から力を入れている次世代の発掘・発信および実際の案件へのアサインも、新しい時代にふさわしい新しい想像力を開拓する行為と言えるかもしれないし、とどのつまり僕は企業広告というパブリックな表現を通して、社会の想像力を更新しているのかもしれない。

この「社会の想像力を更新する」というフレーズが出てきたとき、ようやく会社と社会とのつながりが見えた気がした。

人類は神話や宗教などの虚構を想像する力によって種の連帯を図り、環境を変え、文明を築いてきた。人が心のうちに秘める想像力こそが現実の社会を作り上げている。社会の想像力は、僕らが日々目にする表現物に大きな影響を受ける。知らぬ間に既存の価値観が再生産される場合もあるだろうし、逆に一つのフィクションが新たな価値観を呼び寄せることだってある。たとえ微力でも、社会の想像力の外縁を広げ、あらゆる生き方を肯定していきたい。それが自社の存在意義であると思い至ったのだった。

正直に話そう。先述のまちづくり関連事業も含め、これまで取り組んできたあらゆる活動を通して、僕は目に見えない人の心の変容を目指してきた。どうにかして、社会の中で傷ついた心をケアし、その人らしい活動をエンパワメントできないかと。ただ、その想いと実際の事業を上手く結び付けられずにいた。想いをストレートに表現する別の事業を始めるだけの手腕も度胸もなかった。大好きなキャスティングを続けながら、きちんとキャスティングを通して社会に貢献したかった。でもどうやって社会に関われば良いかわからなかった。この悶々とした気持ちが、「社会の想像力を更新する」というフレーズによって、一気に晴れ上がっていった。"単にあなたの中で意味付けが変わっただけでしょ?"と、内心笑う人もいるだろう。たしかにそうかもしれない。でも、僕は確信している。このパーパスが、この会社案内が、これから先に始まる新しい旅の羅針盤になると。実際、頭の中にはすでに次なる展開がいくつか浮かんでいる。今後の活動の中で、このパーパスがただのお題目ではないことを証明していきたいと思う。どうか温かい目で見守ってほしい。


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