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仮想通貨交換業者が預かった仮想通貨は同業者の資産なのか?(会計処理草案より 3/3)

先日12月6日に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「仮想通貨の会計処理草案」の結論の背景で、個人的に面白いなと思った論点に触れてみます。

今回は、仮想通貨利用者ではなく、仮想通貨交換業者のウォレットサービスに係る会計処理に注目してみます。この会計処理は仮想通貨利用者が同サービスを利用して交換業者に仮想通貨を預けることのリスクが垣間見えるものとなっています。

仮想通貨交換業者とサービス内容

まず、仮想通貨交換業者とは何かというと、bitFlyerやコインチェックなどの、仮想通貨の売買を行うことができるプラットフォームを提供している業者です。

彼らが行っている2つの大きなサービスとして、仮想通貨の販売所・交換所の展開(仮想通貨利用者に仮想通貨を売買やその仲介)と、ウォレットの提供(利用者の保有する仮想通貨の預かり)が挙げられます。

このうちのウォレットの提供に係る、交換業者のサービス利用者から預かる仮想通貨の会計処理に注目してみます。

交換業者の預かった仮想通貨の会計処理

草案では、当該仮想通貨について、交換業者は資産と負債の同額の両建てを行うことを示しています。

これは、例えば、利用者が交換業者の販売所・交換所のサービスを利用して得た仮想通貨をそのまま交換業者に預けたとします。この時、交換業者はその仮想通貨を会計上の資産として、計上するとともに、その利用者に対する返済義務として、同額の負債を計上するこというものです。

実は、この処理ですと、同じ仮想通貨が利用者のBSにも、交換業者のBSにも計上されることになりますね。この当たり、面白いなと思ったので、草案の結論の背景を見てみました。

本当に交換業者の 貸借対照表に計上させるべき?

利用者から預かっている仮想通貨を交換業者のBSに計上すべきではないのではないかという意見も、草案の結論の背景では紹介されており、以下のような内容です。

そもそも、会計上の資産として計上するか否かの判断は、預かった資産について「法律上の権利の移転」に着目している。しかし、仮想通貨は法律上の位置付けが明確でない。また、利用者(預託者)が仮想通貨の処分を指図することができるし、そもそも仮想通貨の値動きのリスクや経済的価値は利用者に属しているというものです。

そのため、交換業者が預かった仮想通貨は利用者に属している、つまり、交換業者のBSに計上すべきではないのではないか?という主張です。

交換業者のBSに計上すべきとした根拠

これに対して、草案では、以下のような1)個別性のなさ、2)処分する権利の保有、3)交換所破産時の利用者の取戻権がないといったことを根拠に、利用者から預かった仮想通貨を交換業者のBSに計上すべきとしています。

1)自己保有と預かり保有を区分管理せよと求められているが、一般に仮想通貨自体には現金と同様に個別性がない(私の1万円とあなたの1万円の区別をつけられない)

2)交換業者は預かった仮想通貨の処分に必要な暗号鍵等を保管している。つまり、自己保有の仮想通貨と同様に処分できる状況にある。(これには驚きました。)

3)交換業者が破産手続きの開始決定を受けた時には、基本的に利用者の仮想通貨は所有権に基づく取戻権は認められないと言われている(これは弁護士先生に聞いたことがあります)

このような状況を踏まえて、交換業者は利用者から預かった仮想通貨を、預かった時点の時価で、自己のBSに資産計上することとしているとのことです。

利用者が交換業者に仮想通貨を預けることは一定のリスクがある(と会計処理から垣間見える)

改めて、草案上、交換業者は利用者から預かった仮想通貨を会計上の資産としてBS計上するとしています。その根拠として、仮想通貨の特質上、現金と同様に自己保有の仮想通貨と区分することは実質的には困難(個別性がない)で、交換業者は当該仮想通貨に対する権利を有する(処分する権利)、また、交換業者が破産した際の利用者の権利の低さ(破産時に取戻権がないこと)に鑑みて、交換業者のBSに計上することとした。としています。

3つの根拠を改めて見ると、交換業者に預けた利用者の仮想通貨は意外に守られていない、一定のリスクがあるようです。そんなことも、交換業者が預かった仮想通貨を会計上の資産として計上することから垣間見ることができます。

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