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新たに発生している跳躍変異株は、COVID-19ワクチン高接種集団でCOVID-19による死亡者の急増が間近に迫ることを告げる絶望的な前兆なのか?
Dr. Geert Vanden Bosscheの2024年11月30日投稿(Substack)
Are Newly Emerging Saltation Variants the Desperate Harbingers of an Imminent Surge in COVID-19 Case Fatalities in Highly C-19 Vaccinated Populations?
の翻訳です。Substackは有料記事ですが、投稿から約2週間後に公開するということです。(2024/12/9現在 著者HPに公開されています。)
著者substackを講読していただければ幸いです。
変異追跡家[1]のますます多くが、SARS-CoV-2ウイルスの変異は、もはやこれ以上感染性を大きく高めることはできないレベルに達したと結論するようになっている。現在、同時優勢となって蔓延している多様な跳躍変異株[2]は、多面作用[3]を示しており、そのため適応度[4]にかかるコストが高くなっているためである。
多面作用はウイルス伝播のボトルネックを狭め、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団の、ウイルスのトランス感染に対する集団レベルの伝播性圧力を高めている。
N末端ドメイン内に生じた免疫逃避変異(N末端ドメインに糖鎖を加える変異も含む)の結果、新たに出現している跳躍変異株では、多面作用の報告が増えている。多面作用によって、関連のないウイルス特性が、ウイルスの感染性に拮抗することがあるため、ウイルスの伝播性に対して集団的に圧力がかかっているにも関わらず、受容体結合ドメインの進化的変化が抑制される傾向となる。ウイルス感染性を相殺する効果は、最終的に、ウイルスの伝播を厳しく制限するボトルネックとなる。
ウイルス伝播のボトルネックが狭いため、逃避変異は非常にコストがかかるものとなる。そのため、変異分析家たちは、新たな変異は慢性感染者の体内で起こり、宿主内のウイルス感染を増強させるものとなるだろうと予測している。例えばBloom Labは「進化は最終的に、いくつかのエピスタティックな変異の組み合わせによって、この多面作用のパズルを解決するだろう」と予測している。
(I expect evolution will eventually solve this pleiotropic puzzle through some epistatic combination of mutations--we’ve seen SARS-CoV-2 fix antibody escape mutations that were individually deleterious in the past.)
— Bloom Lab (@jbloom_lab) November 21, 2024
エピスタシス(エピスタティック)とは、異なる遺伝子座の相互作用を指す。エピスタシスによって、ある変異の効果が、別の変異の効果によって隠されたり、修飾されたり、強められたりする。特に糖鎖変異において、この相互作用は重要である。なぜなら、糖鎖付加には複数の遺伝子や酵素が相互作用する複雑な生化学経路が関連しているからである。しかし、ウイルスが、異なる部位に、複数のアミノ酸変異や糖鎖付加変異までも同時に組み込み、より高い適応度を実現する可能性はいったいどれほどあるのだろうか。
最終的には、進化が、この多面作用のパズルを解くだろうということには同意するが、その解決策が、”単に時間をかければ、感染した個人にたまたま出現したいくつかの変異がエピスタティックに組み合わさり、より伝播性の高い変異として優勢となる”というようなものであるとは私には思えない。 ”時を待てば、いずれランダムにこれが起きる”という可能性は低い、というのが私の考えだ。
いずれにせよ、伝播のボトルネック問題の長期化は、ウイルスにとっては生存にかかわる問題であり、解決しなければならない。そのため、ウイルスは、現在、ギアを切り替え、宿主間伝播から宿主内伝播を強化することに集中している可能性が高い。変異追跡家たちは、これによって、ウイルス伝播のボトルネック問題が解決されるのか、そのことが、重症疾患の原因となる可能性はないのか、ということを懸念している(「今のところ我々は幸運であった……この幸運が続くことを祈ろう。」(RyanHisnerのXポスト))。
When exactly that will happen & what characteristics it will have is anyone's guess. We've been lucky so far: apart from BA.5, the tendency has been toward less severe acute illness, though long-term effects, importantly, are much less certain. Let's hope our luck holds. 6/6
— Ryan Hisner (@LongDesertTrain) November 22, 2024
注目に値するのは、このパンデミックの後半に入ってようやく、変異追跡家たちが、初めて、ウイルスの現在の進化動態が示す潜在的脅威を指摘し始めていることだ。しかし、彼らは今も、殺菌免疫をもたらさないCOVID-19ワクチンによる大規模ワクチン接種プログラムと、パンデミックの当初に見られたウイルス変異の収束進化との関連や、それに引き続いて起こった、免疫再集中を引き起こす原因となった大規模なワクチン・ブレークスルー感染と、より感染性の高い多様な(diversified)免疫逃避変異株出現との関連を、全く認めようとしていない。これらの結果、現在は準安定(metastable)といえるような状態となっており、それがウイルス伝播のボトルネックとなって現れている。ウイルスがこの状況から逃れる唯一の方法は、宿主内伝播を強める変異の選択しかないのだ。
多様な免疫逃避変異株が大規模の出現が、どのようにしてウイルスの伝播のボトルネックを狭めたのか。
かつては一連の免疫逃避変異株を生み出していた、極めて感染性の高いウイルスの宿主間伝播にボトルネックが生じたことは、次の理由によってのみ説明可能である。極めて感染性の高い変異株の子孫ウイルスは、上気道を巡回する樹状細胞表面に、より強く吸着する。そのため、ウィルス感染性の増強は、ウイルスの個体内伝播によって生じるウイルスのトランス感染を妨げる(著書参照)[邦訳]。したがって、ある閾値を越えると、ウイルスの固有感染性の増加はウイルスの排出を著しく低下させることにつながり、固有感染性が強まっていても、もはや巡回する樹状細胞に吸着しない逃避変異株の選択がCOVID-19ワクチンを接種された集団で促進される可能性が高い。
言い換えれば、非常に感染性の高い変異株が、宿主間伝播のボトルネックに直面すると、自動的にウイルスのトランス感染性——すなわち、ウイルスの宿主内伝播性であり、ウイルスの病原性に関連する——に対する強い選択圧力が生じるということだ。このような、ウイルスの伝播性に対する集団的圧力から逃れる新たなコロナウイルスが出現すれば、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団にとって、致命的な脅威となる。
ウイルス伝播のボトルネック[5]はウイルスの適応力を低下させる。ただし、そのボトルネックによって、ウィルスに対する選択圧力の種類が根本的に変わってしまう場合は別である。
伝播のボトルネックは、新たに生じる変異が拡大することを制限し、伝播の連鎖にそってこれらの変異が効率良く選択されることを妨げて、適応進化を制約する(下図参照)。集団ワクチン接種プログラムによって、当初、引き起こされた大きな遺伝的多様性は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で強い免疫選択が維持されているため、今では劇的に減少した。そのため、現在の、非常に感染性の高いウイルス変異株が複数、同時流行している状況は、ウイルスの(宿主間)伝播のボトルネックとなるだろう。しかし、ボトルネックには遺伝的多様性の減少が伴うが、一方で、ウイルスの生存に有利な別のタイプの変異を促進する可能性もあり、ウイルスの適応能力を必ずしも制約するものではない。そのような別種の変異は、このボトルネックの原因となっている、新たに獲得したウイルスの特性(例えば、固有感染性の増強)による抑制メカニズムに拮抗し、根本的に異なる方法でウイルスの適応度に影響する可能性があるためである。例えば、非常に感染性の高い免疫逃避株が、その感染性の高さゆえにトランス感染をおこしにくくなり、そのため、宿主間伝播を制限する結果となり、適応コストの原因となる場合などに、そのような変異が選択されるのかもしれない。私は著書で、そのような非常に感染性の高いウイルス系統が宿主間伝播経路をどのように制約し、ウイルス伝播のボトルネックとなるかを説明した[邦訳]。ウィルスの伝播性に対する十分な圧力があるとするなら、ウイルスのトランス感染に対する制限を取り払い、宿主内伝播を促進するような新しいタイプの変異が選択されるかもしれない。
変異追跡家や分子疫学者は、跳躍変異株の相次ぐ出現の原因を、SARS-CoV-2に慢性感染した免疫の低下した個人に負わせている。私はそれに同意しない。
私はSARS-CoV-2が慢性感染するという見解には同意しない。そうではなく、ウイルスが同じ人から繰返し検出される原因は、上気道に巡回する樹状細胞にウイルスが持続的に吸着しているためと私は考えている。この区別は重要である。なぜなら、現在、多くの科学者が、跳躍変異株は、個々の慢性感染した患者で、時に、または、ランダムに起こる変異が原因であるという印象を人々に与えているからだ。これらの跳躍変異株は、複製においてわずかであるが優位性を持つため、他の変異株と競い始めている。しかし、現在観察されている跳躍変異株が、SARS-CoV-2に慢性感染した患者に起こったランダムな変異の結果であるとすると、このような新たな変異株が——特に、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で——かなりの速度で次々と広範囲に出現している理由が説明できない。実際、慢性感染患者で時に発生する有利な変異によるウイルス進化スピードは、選択圧力によって促される進化スピードに比べ、はるかに遅いのだ。
跳躍変異株が、遺伝的に発散し、相違していることは、必ずしも、それらが個々の慢性感染患者に由来することを示唆しない。
それぞれの個体特異的な選択圧力によって、独自の変異株が発生することはあるかもしれないが、ウイルスは、受容体結合ドメインに関連する異なる部位に対する集団的選択圧力にも完全に適合して変異しうる。受容体結合ドメインに関連する異なる部位に対する変異であっても、多面作用を通じてウィルス感染性に同様の変化をもたらすのだ。その理由は、強い選択圧力は、有利な変異がウイルス集団に急速に拡がるという「軍拡競争」のダイナミクスを速やかに作りだすからである。
したがって、伝播のボトルネックが新しい変異の拡大を制限し、選択効率を低下させ——したがって、非常に伝染性の高いSARS-CoV-2変異株への進化も制約される(https://www.nature.com/articles/s41467-023-36001-5)——という科学的仮説は一般的に当てはめることはできない。
跳躍変異株は通常稀であるが、選択圧力が強い場合には発生しうるということはよく知られている。しかし、宿主間伝播のボトルネックが集団的に狭まることがない状況では、より感染性の高い跳躍変異株が、どのようにして広範囲に急速に(同時)優勢となれるのかを理解することは難しい。大規模な選択圧力がない場合、ほとんどの変異は中立であったり有害であったりする。伝播のボトルネックが、ランダムな獲得変異によって克服されることは稀であり、そのような変異が蓄積するには非常に長い時間を要する。
個々の免疫低下者の持続感染が、様々な跳躍変異株の急速かつ広範な出現の原因であるとすれば、そのような変異株が主に、高度にCOVID-19ワクチン接種を行なった国で——いや、高度にCOVID-19ワクチン接種を行なった国だけで——発生していることも説明できない。ウイルスの伝播性に対して集団レベルの免疫圧力がない状況で、このような変異株が急速かつ広範に拡大するには、多数の慢性感染者から、独立かつ同時並行的に、このような変異株が出現しなければならない。しかし、そのようなことは極めて考えにくい。
しかも、上述したように、SARS-CoV-2変異株が慢性感染している可能性でさえ、非常に疑わしいのだ。私は、非常に感染性の高いウイルス粒子の多くが、急性感染を引き起こすことなく、上気道に検出可能なレベルで存在し続けていることは認めるが、SARS-CoV-2が「増殖性」慢性感染しているという明確な証拠は示されていない。ワクチン接種後や、増殖性感染には至らない自然感染をした後に、ブレークスルー感染した場合、非常に感染性の高い変異株は、上気道に常在する樹状細胞に吸着される可能性があるのだ。このことから、前段でも述べたように、ウイルスの感染性増大が、最終的にはウイルス排出の低下を引き起こし、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、集団全体としての個体間伝播のボトルネックとなることは明らかである。このボトルネックは、そのような集団が、集団として、ウイルスのトランス感染性(すなわち、病原性)に対して選択的伝播圧力をおよぼす原因となる。この現象は、COVID-19ワクチンを高度に接種したあらゆる地域で現在観察されている、ウイルスの進化動態の加速を説明する。それだけではなく、この現象は、そのような集団でのSARS-CoV-2パンデミックの加速的な進化動態の原動力は、個人レベルで時に発生する変異ではなく、集団が集団全体としてウイルスにおよぼす影響であることを強く示唆する。
したがって、大規模ワクチン接種ブログラムで高度に接種された集団が、当初はSARS-CoV-2の固有感染性に免疫圧力をおよぼし、自然なパンデミックを免疫逃避パンデミックに変えてしまったことは否定できない。今は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は、ウイルスの個体内伝播性(つまり、ウイルス固有のトランス感染性)に対して集団的に圧力を高めている。そのため、私の考えでは、この免疫逃避パンデミックが、今や毒性パンデミック(virulent pandemic)に移行する瀬戸際であることは疑いようがない。私達が、まだ、重症疾患発生の劇的な増加を目の当たりにしていないのは、ウイルスを、固有感染性の高いものから、固有病原性の高いものへと移行させる集団的圧力が、まだ、決定的な閾値を越えていないためにすぎない。
結論:
免疫選択圧力または伝播性選択圧力はウイルス進化を加速し、時に発生する有利な変異のみによる進化スピードをはるかに上回るスピードで変異株を発生させる。したがって、私は、“非常に伝播性の高い変異株が拡大する間に複数の変異のエピスタティックな相互作用が起こる可能性は非常に低い”、という見解や、“高度に変異した、いわゆる跳躍変異株が、進化により選択されるには、慢性感染者、あるいは持続感染者が必要である”という見解には同意しない。
現在流行している免疫逃避変異株は、その固有感染性が非常に高く、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では伝播のボトルネックがますます狭まっている。そのため、ウイルスに集団的に圧力がかかっていることを考えると、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で、致死的なCOVID-19患者を急増させるための準備をウイルスが完了していないと考えることは難しい。
もし私が正しく、変異追跡家が誤っているなら、様々な、非常に感染性の高い跳躍変異株の出現が、長い期間だらだらと続くということはないだろう。そのかわり、様々な、非常に病原性の高い跳躍変異株が、突然、急激に、出現するだろう。そのような跳躍変異株は、糖鎖プロファイルの変化によって病原性を増した、全く新しいタイプのコロナウイルス——「Hivicron」——を生み出す可能性がある。
[1] 本稿に述べた、変異追跡者たちの見解と分析は、主にソーシャルメディアプラットフォーム上での彼らの最近の投稿による。(主に彼らはウイルス学者、進化生物学者、分子疫学者である。例えば、@JPWeiland、@jbloom_lab、@LongDesertTrain、@DPruss6、@yunlong_cao)
[2] 本稿では、跳躍変異株(saltation variants)とは、変異によってウイルスの特性を突然大きく変えた変異株を指す。
[3] 多面作用(pleiotropic effect)は、ウイルスのある変異が、一見無関係に見える複数のウイルスの特性(例えば、ウイルスの中和性、受容体結合ドメイン(RBD)とACE-2の親和性や結合力、など)に影響する場合に現れる。この作用は多くの場合、アロステリック効果の結果として生じる。本稿では、「アロステリック効果」を、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの変異が、他の重要な機能ドメインの変異と相互作用をすることで、ウイルスの感染性におよぼす影響と定義する。これによって、受容体結合ドメインとは別のスパイクタンパク質ドメインの中和性や結合性が変化する。
[4] ウイルスの適応度(Viral fitness )とは、ウイルスが宿主個体内や宿主集団間で複製、および、または、拡大できる能力を指す。これには、ウイルスの生存、複製、伝播効率が含まれる。
[5] 本稿では、伝播のボトルネック(transmission bottleneck)とは、ウイルスが宿主から宿主へと伝播するにしたがって、その遺伝的多様性が著しく低下する現象を指す。この現象は、元の宿主のウイルス集団のごく一部だけが、次の宿主に感染できた場合に起こる。その原因の多くは、特定の変異株が選択されたためである。このようにして選択された変異株によって、ウイルスは新たな宿主(集団)に適応することができる。
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