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迷走神経に迷う

Dr. Geert Vanden Bossche 2024年1月17日投稿
Vagus or vague (VOICES FOR SCIENCE AND SOLIDARITY
の翻訳です。
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原文を参照の上ご利用ください。

以下はミコライ・ラセック(Mikolaj Raszek)の最新の動画『Vagus nerve thrills: 4 exciting insights including challenging Dr. Geert v Bossche pandemic outcomes(迷走神経はスリリングだ:ボッシェ博士のパンデミックの結末予測への挑戦を含む4つのエキサイティングな洞察)』(2024/1/16 youtube.com)に対する私の反論である。どうぞお読みいただきたい。

もう感染にもワクチンに誘導された免疫反応も気にしなくていい。なぜかって、オミクロンは迷走神経に、もうCOVID-19パンデミックは終いにしよう、と言っているからね!

SARS-CoV-2やその子孫に曝露された時に、その人が症状を発症するかどうかを決めるのは免疫系であるという、私たちの考えは間違っていた。有症状感染の発生は、ひとえに流行しているSARS-CoV-2系統のスパイクタンパク質と迷走神経のアセチルコリン受容体との相互作用に依存している。SARS-CoV-2は迷走神経に感染することができ、迷走神経は下気道を含む様々な器官を支配していることを考えると、迷走神経のアセチルコリン受容体に結合するSARS-CoV-2(亜)系統は容易に有症状のCOVID-19疾患を引き起こすことができたが、オミクロンやその子孫系統はそうすることができない。少なくともミコライ・ラセック(M.R.)はそう考えている。現在のウイルスの進化の軌跡は、もっぱらオミクロンの子孫を生み出していることから、彼はこれがCOVID-19パンデミックの終わりの始まりになると予想している、あるいは少なくともそう願っている!現在のウイルスの進化の方向は、オミクロンの子孫を生み出すことに終始していることから、彼はCOVID-19パンデミックの終わりの始まりを予期している、あるいは少なくともそれを望んでいる!

私がM.R.氏.を正しく理解しているとすれば、SARS-CoV-2感染の臨床的結果に関する限りは、自然感染で免疫を獲得していようが、COVID-19ワクチン接種を受けていようが、それは実は重要ではないということになる。その理屈を発展させれば、免疫学的にナイーブであろうとなかろうと、(再)曝露の前に被験者から抗体を取り除いても、オミクロンやその子孫株を使ったチャレンジ試験の結果は変わらない、つまり害はないという結論にさえなる。M.R.氏.が、次のような質問を自分自身に問うたことがあるかどうかは知らないが、機能的な免疫系以外の何が、感染すると宿主細胞を破壊することが知られている感染性の高いウイルスによる疾患を防ぐことができるというのだろうか......宿主細胞がウイルスを受け入れない場合は別だが、SARS-CoV-2の場合は間違いなくそうではない。

M.R.氏.は、異なるSARS-CoV-2変異株が次々と流行するのは、SARS-CoV-2変異株が実験室(!)か動物のリザーバーという外部からの供給源を通じてヒト集団に導入された結果ではないか、と続ける。だから、我々はオミクロンがヒト集団にもたらされたことに感謝するべきである。この変異株は現在効率的に増殖しており、以前流行していたSARS-CoV-2の系統とは抗原的に非常に離れているため、オミクロン以前の状況に戻ることはありえない!WHOの立ち位置同様、M.R.氏が注目しているのはCOVID-19の症状だけであるため、オミクロンのおかげでパンデミックの急性期は終わりを迎えることができた、ということになる。そういうわけで、オミクロンの子孫たちが、COVID-19パンデミックに終止符を打つだろうと、彼は期待に胸を膨らませている。

M. R.氏は、オミクロン由来変異株の現在の進化や、その生物学的特性(疾患の重症度に関連するものも含む!)がすでにあまり "エキサイティング "ではない方向に変化していることについて、最新の情報を入手していないようだ、と思わざるを得ない。彼は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団の免疫圧力がSARS-CoV-2の進化の軌跡と動態を形成していることや、『世界的な大流行が、ウイルスの免疫逃避変異の進化効率を大幅に促進した』ことを明確に示すデータを報告している査読済み論文を読んでいないようである(https://www.nature.com/articles/s41586-022-05644-7 ; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37169744/)。

彼は以前の動画では、まるまる1本かけて、科学者達が、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団における免疫応答(例えば、複数回のワクチン接種やワクチン・ブレークスルー感染によって誘導される)が、新たなスパイク関連エピトープへの免疫再集中を引き起こしうることを確認した、と興奮気味に紹介したが、それと彼の新たな洞察をどのように整合させるのだろうか?このことは、標的となるエピトープ、ひいてはウイルスの進化の軌跡は、宿主の免疫反応によってほぼ決定されることを示しているのではないだろうか?したがって、オミクロン一族であっても突然変異が急速に蓄積される可能性がある。例えば、オミクロンBA.2.86変異株は、オリジナルであるオミクロンBA.1株と比較して、Sタンパク質だけでも30以上の変異をあっという間に組み込んだ。機能獲得実験や実験室からの漏出、あるいは保菌動物種からの壮大なジャンプなどで、これらすべてが説明できると主張することは、科学に対する侮辱である。なぜなら、そのような仮定は病原体と宿主の免疫相互作用のダイナミクスを完全に無視しているからである。M.R.氏を現実に引き戻すために、私は彼に私の最新の論文(https://www.trialsitenews.com/a/immunocompromised-patients-are-not-a-potential-breeding-ground-for-highly-mutated-SARS-CoV-2-variants-e81b1c11和訳])を送った。M.R.氏が、病原体と宿主の間の複雑な相互作用の結果を予測する際には、免疫システムを無視してはならない、ということを改めて考えてくれることを祈るのみである。

最後に、私は、コロナ後遺症(Long Covid)にどのように迷走神経が関わっているかについては掘り下げていない。しかし、単純にスパイクタンパク質と迷走神経のアセチルコリン受容体との相互作用から生じるとするには、コロナ後遺症の症状は複雑すぎるように思われる。私は、迷走神経は、他の、例えば、神経を包むミエリン鞘の成分であるミエリン塩基性タンパク質に対する自己反応性に依存するような、別の潜在的な経路を通じて関与しているのではないかと考えている。ウイルス感染の慢性化や長期化が神経障害を引き起こすことはよく知られており、文献発表もされている。例えば、ウイルス感染の慢性化や長期化による多発性硬化症の発症例が知られている(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9759852/ ; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7133435/ ; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7691962/ ; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10352259/)。

私は批判や別の視点、新たな洞察に対して常にオープンであるが、病原体と宿主の相互作用の研究に関して、免疫系の本質的な役割を見過ごすことに対しては決して心躍らせることはない。私が期待するのは、M.R.氏.が初心に戻り、パンデミックについて、そして、これらの相互作用の基礎について再考することである。


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