ウイルス伝播に対する免疫圧力の持続は、病原性を増強するようなウイルス糖鎖の変化の自然選択につながるだろうか

Dr. Geert Vanden Bosscheの2024年9月3日投稿(Substack)
Could sustained immune pressure on viral transmissibility eventually lead to the natural selection of virulence-enhancing changes in viral glycosylation?
の翻訳です。原文は有料記事ですが、著者の御厚意で投稿から2週間経てば翻訳をここに掲載して良いとの許可をいただいています。substackを講読して原文も参照していただければ幸いです。

以前の寄稿 []で私は、ヒトの免疫系のような複雑な生物系が、COVID-19ワクチンによって引き起こされたウイルスの免疫逃避による、ヒトの健康に対する重大な結果を緩和、あるいは遅らせている、目を見張るようなレジリエンスに対して、驚きを表明した。このレジリエンスは、ウイルスの免疫逃避メカニズムによって宿主生物種の生存が脅かされる場合に、特に発揮されるようである。私はSARS-CoV-2の糖鎖パターンを変える変異が、最終的にはウイルスの病原性を増すような進化につながり、急速な死を引き起こす可能性があると主張してきた[]。したがって、ウイルスの糖鎖プロファイルの進化的変化が、ウイルスの病原性の緩和や、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団における死亡率の爆発的増加を遅らせることにも貢献しているかどうかを検討することは当然といえる。

私が以前の寄稿[]で引用した、ウイルスの糖鎖についての文献に基づけば、ウイルスの糖鎖の変化はウイルスの病原性の増大につながる可能性が非常に高い。以下の議論では、これまでの寄稿に追加して、免疫圧力下において、そのような変化が選択されるのに、より時間がかかる理由を、ウイルスの感染力を直接的に強めるアミノ酸配列の変化と比較して説明する。

糖鎖付加(グリコシル化)とは、タンパク質や脂質に糖鎖(グリカン)を付加する反応である。糖鎖にはN結合型とO結合型がある[1]。ウイルスでは、表面タンパク質がしばしば糖鎖付加されている。コロナウイルスのスパイクタンパク質やインフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質がその例である。糖鎖は、重要なウイルスエピトープを隠して、抗体がそれらのエピトープを認識できないようにし、ウイルスが免疫系から発見されたり中和されたりしないようにすることができる。免疫学的にナイーブ(未経験)な集団で、糖鎖付加がウイルスの感染や複製を促進したり、免疫学的に経験豊富な集団であってもブレークスルー感染が続いている場合に、糖鎖付加が標的臓器へのトランス感染を促進したりする場合には、この免疫逃避メカニズムは高度の病原性を引き起こしうる。なぜなら、糖鎖付加によって受容体結合親和性や特異性が修飾されることが知られており、細胞表面に発現された結合部位に対する抗体の結合性や、特定の組織細胞の感受性を変化させる可能性があるからである。

ウイルスの感染力を決める表面タンパク質のアミノ酸変異は、ウィルスの感染性や伝播性を容易に増加させ(例えば、中和抗体が「感染性」ウイルスタンパク質の受容体結合部位に結合するのを妨げることによって)、直ちに適応上の利益をもたらすことができるが、糖鎖付加の変化の選択はよりゆっくりとおこる可能性がある。糖鎖付加には、タンパク質のアミノ酸配列と宿主の糖鎖付加機構の両方が関わっているからである。そのため、選択のダイナミクスとその変化の現れ方がより複雑なものとなっている。糖鎖付加が変化することで(タンパク質の折畳みや、構造安定性や、機能が変化するなどして)、宿主細胞への侵入の効率が悪くなったり、ウイルスの複製速度が低下したりすることもあるため、ウイルス表面タンパク質の糖鎖付加パターンに「有益な」免疫逃避変異が自然選択されるには、ウイルスの固有感染性には関連しない、異なるエピトープを標的とした、明確で持続的な免疫選択圧力が必要である可能性がある。ウイルスの糖鎖付加のパターンというものは、多くの場合、免疫逃避と、宿主細胞への侵入と複製の効率維持の間で、バランスをとっているものなのだ。

まとめると、直接的なアミノ酸変化に比べ、ウイルスの糖鎖付加の進化動態は、ウイルスの宿主集団内での持続力と拡散力に影響を与え、免疫圧力の下でウイルスが適応するための、より複雑で文脈依存的なプロセスを反映すると言ってよいだろう。SARS-CoV-2の変異株は、ウイルスが持続的な免疫圧力下におかれた場合に、その変異が糖鎖付加にも及ぶこと(この場合、特にスパイクタンパク質)を示した一例に過ぎない[2]。したがって、有益な糖鎖付加の変化を備えた新たな免疫逃避変異株の出現には、より長い進化期間が必要とされる可能性が高い。

残念ながら、多くの前例(インフルエンザウイルス、HIV-1、ヒトライノウイウルス、C型肝炎ウィルスなど)があり、ウイルス学の教科書にも詳細に記述されているにも関わらず、SARS-CoV-2の糖鎖付加変異の重要性と、それが強力な持続的な免疫圧力下で選択された時に、パンデミックの結末に与えうる潜在的影響についてはほとんど理解されておらず、過小評価されていることは確かである。


[1] N結合型糖鎖付加: アスパラギン(Asn)の側鎖の窒素原子(N)に糖鎖/糖が結合したもの。O-結合型糖鎖付加:セリン(Ser)またはスレオニン(Thr)の側鎖の水酸基の酸素原子(O)に糖鎖/糖が結合したもの。(アスパラギン、セリン、スレオニンはアミノ酸)。
[2]例えばデルタ株やオミクロン株のような変異株の出現には、免疫反応とワクチンの有効性を変えるようなスパイクタンパク質の糖鎖付加パターンの変化が含まれていた。

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