集団ワクチン接種の継続はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をオミクロン以上に進化させるだけである
「オミクロンは感染性が高い!」「オミクロンの症状は軽い!」「オミクロンはワクチンによる免疫から逃れる!」「オミクロンはスパイク(S)タンパク質に驚くべき数の変異がある!」「オミクロンは変異が多すぎるため自滅する。変異が多すぎて、最後には複製できなくなる!」「オミクロンは不吉だ」「オミクロンは無害だ」「オミクロンはあるHIV患者から生まれた」「オミクロンが拡大したのは南アフリカのせいだ!」「様々な意見はあるが、いずれにせよ、私たちは新しいワクチン、つまり抗オミクロンワクチンを必要としている!そのようなワクチンはオミクロンを手なずけ、パンデミックに歯止めをかけ、オミクロンをエンデミック(地域流行)に追い込むのだ!」
主要なオピニオンリーダーも公衆衛生当局も、このパンデミックの進化動態に関連することを何も理解していない。これはオミクロンが出現しても全く変わっていない。熱心な科学者は、次々と現れるSARS-CoV-2変異株の分子切手蒐集に多くの時間を費やしているが、木を見て森を見ずという状態である。臨床医は、この病気のさまざまな症状に困惑している。ワクチン産業は、「ワクチン」という名前の製品を売ることができる限り、上記のようなことは何一つ気にも留めない。「ワクチン」という名称は、まもなく医学用語集から削除されることになるだろうに。
科学的素朴さと傲慢な権力欲が相まって、公衆衛生当局と主要オピニオンリーダ、そして産業界の強力な同盟は、SARS-CoV-2が広範囲の免疫圧力にさらされた場合の進化能力を劇的に過小評価するようになった。オミクロンはその一例に過ぎず、同様のスパイクタンパク質の変異を持つ他の変異株が他の国でもすぐに出現することは疑いない。SARS-CoV-2の感染性に対して集団レベルで不十分な免疫圧力が同様に及ぼされ、かつ、同様に高い感染圧力(感染率)があれば、異なる結果になると考える理由はないだろう。それどころか、集団ワクチン接種のおかげで、より感染性の高い変異株の優れた温床となるべく準備できた国は、オミクロンとその仲間を手厚くもてなすことになるだろう。
科学的に倒錯した物語が火に油を注ぎ続ける中、オミクロンが、制御を失ったパンデミック列車の終着駅になるとは到底思えない。オミクロンが軽症で始まったのは、以前の無症状感染(例えば、以前優勢だった別の変異株への感染)で得られた短命で機能性の低い抗S抗体が、オミクロンを認識しなかったためだと考えられる。実際、オミクロンが耐性なのは、ワクチンによる抗体だけでなく、無症状/軽症の自然感染で得られた低親和性抗体も同様である可能性が非常に高い。結果的に、このような過去の感染に由来する抗体は、もはや自然抗体とウイルスとの結合を妨げることはないのだろう。したがって、無症状/軽症の疾患を経験していた人は、オミクロンに対しては、第一線の免疫防御を完全に利用することができるようになる。このため、「専門家」は、ウイルス(オミクロン)が(デルタよりも)病原性が弱くなり、エンデミック(地方流行)に移行しつつあるとの印象を持つようになったのだ。しかし、全体的に「軽症」というパターンは、オミクロンが優勢になり、高い感染率を引き起こすまでしか続かないだろう。オミクロンが優勢となり、感染率が高まれば、感染の直後に再曝露する可能性が高まり、その直接の結果として、短命で低親和性の抗S抗体が自然抗体と競合するようになる者が増える。オミクロンの感染率が高ければ、短命で機能性の低い抗S抗体を持つ割合が集団の中で減少することはないだろう。このことと、抗オミクロンワクチン(避けられないのか?)の集団接種の継続の組合わせで、大集団がオミクロンの感染性に免疫圧力をかけることができるようになる。しかし、これらの免疫反応はいずれもウイルス感染を抑制できない(現在では、企業が用いていいるCOVID-19ワクチンには感染伝搬をブロックする能力がないことが一般にも広く知られている)。
集団ワクチン接種がウイルスのCOVID-19ワクチン抵抗性を促進した。ウイルス抵抗性によってSARS-CoV-2(例えばオミクロン)の感染性が高まった。最終的にSARS-CoV-2は(ACE2とは)異なる細胞表面の要素を介して受容性細胞に侵入できるようになるかもしれない。
私は最適ではない免疫圧力が維持されると、スパイクタンパク質にアロステリック変異(注1〕をもたらすことになると確信している。そのような変異は中和抗体がスパイクタンパク質に結合することを妨げないが、受容体結合ドメインを変化させ、中和抗体が認識出来ないドメインが受容性宿主細胞の代替受容体に結合出来るようになる。そのようなアロステリック変異はウイルスとACE2との結合を妨げるだろうか?そうかもしれないし、そうではないかもしれない。SARS-CoV-2が細胞を侵入する入り口となる受容体はACE2だけではないことは詳しく調べられている(1〕。いずれにせよ、このメカニズムが生じれば、ワクチンで獲得されたものであれ、自然感染で得られたものであれ、中和抗体は中和力を失うが、それでもウイルスに結合することはできる。中和することなくウイルスに結合する抗体は、抗体依存性疾患増強(ADE) を起こす危険性がある。ウイルス固有の病原性が変わらなくても、ADEはウイルスの病態を増強し加速するので病原性増強と同じ効果をもつ。(免疫圧力がウイルスの病原性に関する遺伝子に向けられているという証拠はない)。これが起これば、壊滅的な疾患を引き起こす経路は異なるとはいえ、マレック病で報告されたのと類似した状況となる可能性がある(2)。マレックウイルスは、宿主(鶏)の自然免疫を突破し、ワクチン非接種の鶏の獲得免疫に先んじるほど病原性が高かったのに対し、SARS-CoV-2のアロステリック変異株は(ワクチンによる自然抗体の抑制により)接種者の自然免疫反応を突破するだけでなく、(ACE2内の従来の受容体ドメインをバイパスするため)ワクチンによる抗体に耐性であり、しかもADEによって、より病原性を高めるだろう。
集団ワクチン接種は、ウイルスの進化力を、必要なら、受容性細胞の代替受容体ドメインを利用することを含めて、フルに発揮させるだけであることは否定できない。そのような劇的な変異に伴う適応コストは病原性の促進で賄われるのかもしれない。このようなダイナミクスが最終的に自然免疫が損なわれていない者を自然淘汰し、自然免疫を持たない者を排除することになりはしないかと真剣に恐れている。自然免疫はウイルスを排除し、ウイルス伝搬を止めるため、そのような自然淘汰はSARS-CoV-2の絶滅につながるだろうが、その結果は想像を絶する。ウイルスの絶滅によるパンデミック終了の対価は、集団免疫獲得によるエンデミック化の対価とは比べものにならないのだ。集団ワクチン接種を強行するものは、後者ではなく、前者を選んでいる。その行為は、史上最大の罪として記憶されるであろう。
参考文献:
(注1)本稿では、アロステリック変異を、下記のような変化をもたらすスパイクタンパク質のRBDの外側に位置する免疫原性ドメインの変異と定義する。すなわち、そのドメインに抗ウイルス抗体が結合すると、RBDの立体構造が変わり、中和抗体が結合できなくなるとともに、RBDはオリジナルの武漢株や古典的な変異株(α, β, γ, δなど)が細胞への侵入経路として利用していたACE2とは異なる細胞表面要素と結合して侵入することが出来るようになる。