炭坑のカナリアが、ついに、狼の衣をまとう時…
非常に毒性の強い、すなわち、致死性のウイルス変異株が、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で、高い入院率や高い死亡率の原因となるほどの伝播性をどうして持つことができるのか、という質問を繰り返し受けている。
重篤な状態の宿主が別の宿主にウイルスを広げる可能性は低いだろうから、重篤な疾患を起こし、死亡することさえあるような高毒性のウイルスは、すなわち、伝播しにくいのではないか?
その通りである!しかし、SARS-CoV-2の免疫逃避パンデミックという文脈においては、ウイルスの「毒性」(病原性)は、高度にワクチン接種された集団で、ワクチン・ブレークスルー感染の持続が、病原性を抑制している多反応性非中和抗体の平均的な局所濃度を徐々に減少させた場合にのみ顕在化する、という観点から考えなければならない。
「潜在的」高毒性コロナウイルスは、既に、一部の限られた脆弱な個体(すなわち、多反応性非中和抗体の濃度が不十分となった個体)に重篤な疾患と死亡を引き起こしているかもしれないが、その患者数が増加するかどうかは、最新の、非常に伝播性の高い変異株であるKP.3がさらに拡大するかどうかにかかっているだろう。その理由は、KP.3によるワクチン・ブレークスルー感染が増えるほど、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団の、残りの、今のところ、まだ完全に感受性とはなっていない部分が、ウイルスの病原性におよぼす免疫圧力がさらに増大するからである。これによって、ウイルス全体における潜在的高毒性コロナウイルス系統の割合が急速に増加することになる(図1)。このことは、特に以下の事実を考慮すると、重篤なCOVID-19疾患を引き起こす高毒性変異株感染の津波に急速につながる可能性がある。
1.高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団における多反応性非中和抗体の濃度は減少し続けている。
さらに
2.「潜在的」高毒性コロナウイルス系統の感染性は多反応性非中和抗体依存性感染増強によって強められる可能性が高い。(このダイナミクスの包括的説明はR.Rennebohm医師の論文(またはここ)を参照するとよい
ウイルス伝播性に対する集団レベルの免疫圧力が、より伝播性の強いSARS-CoV-2変異株の蔓延を引き起こすと、より多くの子孫ウイルスが上気道に常在する樹状細胞に吸着することになる。その結果、ウイルス伝播性に対する集団的免疫圧力は、受容体結合ドメイン(RBD)非依存性のウイルスの増殖性感染力に対する集団的免疫圧力から、ACE2非依存性のウイルス侵入に対する集団的免疫圧力へと変化し、同時に、ウィルス病原性に対する集団的免疫圧力が発生する(図2)。
ブレークスルー感染で増殖した子孫ウイルスが抗原提示細胞に取り込まれる代わりに、その表面に吸着するようになると(詳細は後述。図2も参照)、細胞性自然免疫の訓練がされていないCOVID-19ワクチン接種者が感染性の非常に高いSARS-CoV-2変異株に感染した時に、細胞傷害性T細胞の活性化による感染細胞の除去が十分ではなくなる可能性がある。細胞傷害性T細胞の活性化が弱まると、CD4+T細胞が慢性的に活性化するようになるが、次第にヘルパーT細胞としては機能しなくなり、持続性の免疫病態を促進するようになり、コロナ後遺症(ロング・コビッド)の原因となる。結果として、宿主間伝播に対する集団的免疫圧力から、宿主内伝播に対する集団的免疫圧力への移行は、自己免疫を含む慢性炎症性疾患の患者数の増加を伴うことになる。
ブレークスルー感染したKP.3は、樹状細胞への吸着を増加させているにも関わらず、ウイルス病原性に対して免疫圧力を及ぼすのに十分な伝播性を維持しているため、潜在的高毒性コロナウイルス系統を指数関数的に増加させ、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団での超急性重篤COVID-19感染の巨大な波の開始を加速させている。
下水中のウイルス監視で検出できないような潜在的毒性コロナウイルス系統であっても、感受性個体(すなわち多反応性非中和抗体を持つ人々)の細胞に迅速かつ効果的に受け入れられると考えられる理由は、抗体依存性感染増強である。増強されたウィルス感染性を十分に制御できるほど細胞性自然免疫が強くない人々、そして、ブレークスルー感染時に潜在的中和抗体の濃度が高く、ミスマッチであったために、立体的免疫再集中を起こした人々が、この新たに出現するコロナウイルス系統に曝露すると、多反応性非中和抗体依存性重篤COVID-19疾患増強という劇的な結末を迎える可能性がある(R.Rennebohm医師の解説参照(またはここ))。
しかし、この説が正しいのであれば、なぜ、すでにそうなっていないのか。なぜ入院率や死亡率は今も比較的低いままなのか。
後述するが、潜在的高毒性コロナウイルス系統(highly virulent CoV lineages:HIVICRONと総称する)は、スパイクタンパク質に新たな糖鎖を追加し、これまでとは非常に異なる糖鎖プロファイルを示すと考えられる(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳])
しかし、なぜ、そのような糖鎖変異が、下水で分離されたコロナウイルスから、まだ検出されていないのか。
これは、糖鎖プロファイルにランダムで非選択的な変化が起こっている変異株では、複製と伝播が遅くなるためであると考えられる。例えば、スパイクタンパク質の糖鎖プロファイルや、糖鎖部位密度に影響する変異はウイルスの適応度を下げ、複製速度を遅くし、伝播効率を下げる可能性があると報告されている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7253482/)。SARS-C0V-2変異株が、主にアミノ酸変異を特徴とし、糖鎖プロファイルの変化は比較的少なかった理由はこれで説明できるだろう。実際、これまでのところ、オミクロン子孫株を含む主流となった変異株のスパイクタンパク質のN型、およびO型糖鎖部位はほぼ維持されてきた(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7253482/; https://www.nature.com/articles/s41598-023-33088-0)。このことは、スパイクタンパク質の糖鎖部位は、通常、選択圧力を免れていることを示すと思われる。すなわち、現在のスパイクタンパク質関連の糖鎖部位パターンは、SARS-C0V-2の感染性と伝播性に必要十分であることを示唆しているのだろう。その一方で、オミクロンとその子孫株では、スパイクタンパク質のN型糖鎖が、複合型からオリゴマンノース型へと変化してきているとの報告がある(https://www.nature.com/articles/s41598-023-33088-0)。高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は免疫逃避変異株の繁殖地であることから、この変化がウイルスの免疫逃避戦略の一部となったと考えることは妥当であろう。実際、オリゴマンノース型N型糖鎖の相対的増加(複合型糖鎖の全体量に比較して)によって、そのような変異株は、上気道に常在する樹状細胞が発現するレクチン受容体により上手く吸着できるようになり、それによって、ワクチン・ブレークスルー感染を繰り返しても、病原性抑制性多反応性非中和抗体の働きで重篤なCOVID-19疾患が防がれたり、緩和されたりしている可能性がある。
最近の報告によれば、現在流行しているKP.2とKP.3では、スパイクタンパク質のN末端ドメイン内に、さらにN型糖鎖部位が導入されている。スパイクタンパク質のN末端ドメインのN型糖鎖変異は、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの立体構造変化に影響することがこれまでに報告されており(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7523240/pdf/oc0c01056.pdf)、それによって、ウィルスの細胞への侵入が容易になり、抗体からの逃避が促進される可能性がある (https://www.forbes.com/sites/williamhaseltine/2024/05/31/analyzing-the-emergence-of-covid- variant-kp2-and-its-potential-impact/)。
KP.2とKP.3は、スパイクタンパク質のN末端ドメインにN型糖鎖部位が追加されている点でJN.1と明らかに異なる。この変化は、抗体からの逃避を可能にすると同時に細胞へのウイルス侵入を促進するという免疫逃避メカニズムの最終手段を反映している可能性がある。
この特徴的な糖鎖変異は、高度にCOVID-19ワクチン接種された集団で、広範に反応する細胞傷害性T細胞が大規模に活性化されたために生じた、ウイルスの伝播性に対する集団レベルの免疫圧力に対抗して自然選択されたのかもしれない(ウイルスの進化のダイナミクスによって細胞傷害性T細胞の活性化が引き起こされたことについての包括的総説明は、レンネボーム医師の論文を参照してほしい)。ウイルスの細胞への侵入/感染の促進は、実際に、上気道に常在する樹状細胞表面のC型レクチン受容体の発現を増やし、それによって、スパイクタンパク質のオリゴマンノース型N型糖鎖とC型レクチン受容体との結合が強まり、ウイルスの樹状細胞への吸着が促進されると考えられている。感染によって増殖した子孫ウイルスが移動性樹状細胞へより多く結合するようになると、より多くの多反応性非中和抗体が樹状細胞に吸着したウイルス粒子に結合することになり、この抗体の局所濃度が低くなる(図2)。そのため、ウイルスの樹状細胞への吸着率が上がるほど、これらの抗N末端ドメイン抗体(多反応性非中和抗体)がウイルスの病原性を抑制する能力が劇的に低下し、ウイルスの個体間伝播性に対する集団的免疫圧力が、(ウイルスのトランス感染力とトランス細胞融合に対する免疫圧力を介して)ウイルスの個体内伝播性に対する集団的免疫圧力に変化し、その結果、ウイルスの病原性が強まる(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳])。
したがって、現在の主流の変異株(すなわち、KP.2とKP.3)で、スパイクタンパク質のN末端ドメインにN型糖鎖部位が追加されていることは、アミノ酸変異だけではもはやウイルスの存続に十分な伝播性を確保できなくなった場合の、ウィルス病原性に対する集団的免疫圧力をさらに高めるという、最後の免疫逃避メカニズムを反映していると考えられるのだ。
ウイルス病原性に対する免疫選択圧力が高まると、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインにO型糖鎖部位を備え、拡張させた変異——それによって、病原性を抑制している多反応性非中和抗体からの逃避が可能となる——の自然選択が促進され、優勢となって拡大する可能性がある(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳])。このような変異を取り入れたコロナウイルス系統は、病原性を抑制している多反応性非中和抗体から逃避できるため、急激にその割合を増やすと私は予測している(図1)。その結果、ウイルスの病原性に対する抑制が集団的に解除され、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で重篤なCOVID-19疾患増強の巨大な波が起こる可能性がある。
一度、ウイルスの存続が糖鎖部位の追加と拡張に依存するようになれば、コロナウイルス系統の一つが適切なO型糖鎖部位を取り入れ、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で高毒性となるのは時間の問題だけとなるかもしれない。なぜなら、多反応性非中和抗体の病原性抑制効果に対する完全な抵抗性を与え、スパイクタンパク質のN末端ドメインの多反応性非中和抗体結合部位という小さな領域に対し、ますます強まっている集団的免疫圧力にウイルスが打ち勝つ、このような特定の変異は、自然選択によって選択されるからである。
ウイルスの病原性に対する集団的免疫圧力がますます強まっていることを考えれば、適切なO型糖鎖変異を備えたコロナウイルス系統が病原性抑制性抗体から完全に逃避し、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で指数関数的な増加をして台頭するまでに、数日間とか数週間しかかからないかもしれない。そうなればウイルスは集団の大部分を席巻する可能性がある。これは突然始まり、特に高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団に、巨大なパンデミックの波を引き起こす可能性がある。高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は、ウイルスの病原性に対して強い免疫選択圧力を集団的に及ぼしているからである。
ひとたびスパイクタンパク質にO型糖鎖部位変異を持つコロナウイルスが下水から検出されれば、それは、重篤なCOVID-19疾患増強の破滅的急増が切迫しているということである。
最近まで、ウイルスの免疫逃避メカニズムは主にアミノ酸変異のみで形成されており、部位特異的な糖鎖変異は含まれなかった。したがって、私が高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で、間もなく起こると予測しているパンデミックの大波が、まだ観察されていないとしても驚くべきことではない。しかし、より伝播性が高い免疫逃避変異株が矢継ぎ早に出現することで、ウイルスの存続を維持するのに十分な伝播性をかろうじて保っている現状を考えれば、指数関数的な増加に必要なO型糖鎖変異を備えた新たなコロナウイルスファミリーが出現し、すぐに臨床的に顕在化すると予測するのは論理的に妥当なのである。
したがって、私は、下水から検出される、循環している主なコロナウイルス系統のスパイクタンパク質のN末端ドメイン、または受容体結合ドメインへの新たな糖鎖部位の追加が、パンデミックの津波の切迫の早期警報となりうると提案する。スパイクタンパク質の糖鎖がさらに伸長すると、炭坑のカナリアが狼に変身するような大きな脅威となりうるのだ…。
以上述べたダイナミクスは、なぜ、そして、どのようにして、SARS-CoV-2の伝播性に及ぼされている強い免疫選択圧力が、極めて感受性の高い集団(すなわち、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団)で、潜在的に高毒性のコロナウイルス系統の急激な拡大と優勢化を促進し、重篤なCOVID-19疾患増強による患者数の突然の急増を引き起こすのかを、明確に説明している。このようなダイナミクスの背後にある要因を考えれば、免疫耐性に必要なO型糖鎖部位変異を取り入れたコロナウイルス系統の急増にさらされるだけで、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、そのような患者の急増が始まることになる(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳])。
同じ理由で、予測された、多反応性非中和抗体によって引き起こされる重篤なCOVID-19患者の波は、もはや、季節要因、年齢や人口密度、衛生状態、保健(医療)水準などの人口特性、または、基礎疾患などにはよらず、集団の接種歴(または重症化歴)のみに相関することに注目することが極めて重要である。結果として、複数の波が独立に、時間や場所を問わず発生し、増強された重篤疾患と死亡の世界規模(すなわちパンデミック)の津波に収斂する可能性がある。
結論
結論として、ウイルスの感染力に対する強い免疫選択圧力は、免疫系から逃避可能な、より危険な変異株の出現に有利かもしれないが、そのような変異株が長期間存続し、拡大できるかどうかは、通常、効果的に新しい宿主に伝播することができるかどうかにかかっている。進化生物学者の多くは、重症疾患を引き起こすウイルスは、通常、宿主を動けなくしたり死亡させてしまうため、伝播が困難となることから、時間の経過と共に、より病原性の低い方向へと進化の舵を切ると信じている。しかし、この信条は、単に、彼らが、感染抑制性抗体(すなわち、中和抗体)に始まって、最終的にはトランス感染を抑制する(すなわち、病原性抑制性)抗体に至る、曝露後の重症疾患防御とウイルスの免疫逃避を結びつける、集団レベルの免疫メカニズムを理解していないことを反映しているに過ぎない。
新たに出現したSARS-CoV-2変異株のスパイクタンパク質のアミノ酸変異と、ウイルスの感染力、免疫逃避の可能性、感染やワクチンでプライミングされた抗体による中和の可能性との間の関係については、少なくとも部分的には報告され、モニターされている。しかし、スパイクタンパク質のアミノ酸変異だけで、スパイクタンパク質の糖鎖プロファイルの情報なしでは、見えてくるウイルスと宿主の間の免疫相関の全体像は不完全なものとなる。スパイクタンパク質の糖鎖化はウィルスの感染性と免疫逃避に決定的に重要な影響を及ぼすものだからである(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398101/; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29579213/; https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31121217/; https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmolb.2021.629873/full)。したがって、スパイクタンパク質の糖鎖特性の変化に、もっと注目するべきなのだ。特に、アミノ酸変異だけでウイルスの伝播性を増すことが限界に近づいてきた(免疫逃避)パンデミックの段階においてはなおさらである。
感染を開始するウイルスタンパク質の糖鎖は、ウイルスのライフサイクルに対する免疫圧力に応じて進化するため、SARS-CoV-2変異株の分子疫学サーベイランスが強く必要とされている。そのサーベイランスには、ウイルスのペプチド配列の進化的変化の監視だけでなく、スパイクタンパク質の糖鎖プロファイルと糖鎖プロテオミクスの監視を含むべきである。次の点を明らかにするのに、免疫逃避パンデミックの現段階ほどふさわしいものはない。つまり、オミクロンのスパイクタンパク質の受容体結合ドメインのT323の(他の懸念される変異株と比較した)O型糖鎖占有率は、ウイルスの宿主間伝播性の増強に相関するが(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10284906/)、まさに同じ受容体結合ドメインの潜在的O型糖鎖付加部位へのO型糖鎖の追加は、ウイルスの宿主内伝播性の増強を引き起こす可能性が高いのだ。……そして、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は無防備なまま不意を突かれる……。
図1.このグラフは、非常に伝播性の高い子孫ウイルス(KP.2やKP.3)の抗原提示細胞への吸着が増強された後、ウイルスの宿主内伝播性に対する集団レベルの免疫圧力が増大するにつれて、どのように、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で重篤なCOVID-19疾患増強を引き起こす力を持つコロナウイルスが、その割合を増していくかを示している。
図2.初期オミクロン子孫株は多反応性非中和抗体依存性感染増強を介して標的宿主細胞に侵入した(❶)。子孫ウイルスの一部は樹状細胞に吸着し、ウイルスを載せた樹状細胞は肺やその他の遠隔臓器に移動する。多反応性非中和抗体は、樹状細胞に吸着した子孫ウイルスに結合する(❷)。他方、以前に立体的免疫再集中でプライミングされた抗体は、抗原的により離れた免疫逃避変異株に低親和性で結合するため、抗体ーウイルス複合体を形成し、巡回する抗原提示細胞に取り込まれる(❸)。大きな抗体ーウイルス複合体は抗原提示細胞に、より取り込まれるため、細胞傷害性T細胞が強く活性化され、その結果、ウイルスに感染した宿主細胞が除去できるようになる。
非常に感染性の高いオミクロン子孫株は、標的宿主細胞への侵入に多反応性非中和抗体依存性感染増強を必要としない。非常に感染性の高い変異株が複製し増殖すると、組織に常在する樹状細胞へのウイルス粒子の吸着を促進する免疫環境が生成される。新たに出現した、より伝播性の強いオミクロン子孫株(JN.1一族など)の子孫ウイルスは、より多く移動性樹状細胞に吸着するため、抗原提示細胞へのウイルスの取り込みが減少する。抗原提示細胞によるウイルス取り込みの減少は、非細胞傷害性T細胞のプライミングを促進する。それらのT細胞の一部は自己反応性かもしれない。他は異物反応性だろうが、これまでの立体的免疫再集中でプライミングされた抗体をブーストするヘルパーT細胞として機能することはできない。それは、抗体で覆われた大きな抗体ーウイルス複合体の中の対応するスパイクタンパク質のB細胞エピトープを認識することができないからである(いわゆるノンコグネイトT細胞)。これまでにプライミングされた抗スパイク抗体のブーストが減弱すると、多反応性非中和抗体の産生も減少する。
高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団に、これら、より伝播性の強い変異株(すなわちJN.1の子孫全て)が出現すると、樹状細胞に吸着した子孫ウイルスへの多反応性非中和抗体の結合が促進され、ウイルスの宿主内伝播性に対する免疫圧力が着実に高まっていく。これは最終的に、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団に多反応性非中和抗体によるワクチン・ブレークスルー感染の増強を引き起こし、多反応性非中和抗体によって増強された重篤なCOVID-19疾患の巨大な波の原因となる、新たなコロナウイルス系統の選択を引き起こす。