見出し画像

小説 #2

どのように男を捜すか、まずは交差点の角にあるチェーンの喫茶店に入って考えることにした。通りを望む、ガラス張りのカウンター席に座った。隣のサラリーマンがパソコンでエクセルを開いている。ナプキンの上にアイスコーヒーを置き、机の上に写真を丁寧に並べてみる。腕を組んだ男がこちらを見つめてくる。。

私はその男を見たことがなかった。三十代半ばくらいだろうか。バストアップの写真でも脂肪を蓄えているのがわかる。頬の肉が垂れている。肌のシミが目立つ。キューティクルの美しいおかっぱ頭をしていて、グレーのスーツに似合っていなかった。

写真は他にも数枚あり、それらは望遠レンズで隠し撮りされたものだった。それらはどれも私服で、スーツの袋を提げてイヤホンを挿していた。夜の街で撮られたものも多い。画用紙のケースを持っている姿もある。Tシャツには皺が寄ってて、短パンから露出された足から臑毛が伸びている。

しばらく写真を眺めているうちにはっと気付いた。あ、こいつ、芸人だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?