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小説 #15

閻魔の仕事の中心が「審判」であることは間違いないのだが、一般に思われているそれとは性質が異なる。一般に死者は全員審判にかけられるものと思われているが、実際は全体の5%ほどにすぎない。罪の大小も現実には関係ない。

閻魔の仕事は割に合わないといつも思う。地獄に落とせばもちろん憎まれるが、天国に遣ったからといって感謝される訳でもない。審判期間中には猫を被って、天国に行った途端に本性を顕す者も多い。天国からのクレームも絶えない。

審判に関わる調査もすべて閻魔の仕事だ。気まぐれに審判を下せるわけでもなく、膨大な量の調査と報告がついて回る。対象者の尾行はもちろん、生育過程や家庭環境、死ななければなしえた将来の可能性も考慮に入れなければならない。そして、そのすべてを報告書にまとめる。

膨大な事務作業と調査、接客対応の合間を縫って、関係各所へのあいさつ回りも欠かせない。対象者の利害によって審判が覆されることも多く、ほうぼうの関係者と適切な関係を築いておくことは欠かせない。会食をはしごするのは当たり前で、年の瀬には吐くほど酒を飲まされる。そして経験からいえば、審判の対象者よりも、この「関係者」のほうが厄介なことが多い。所詮閻魔も組織の歯車にすぎない。精神をすり減らして耐える日々だ。

最近では予算の締め付けも顕著で、報酬は頭打ち、日程はタイトになり、作業量は増えるばかりだ。かといって調査がおろそかにできるわけでもない。地獄だ・・・・・・。

そして試験的に運用が開始されたのが、対象者に次の対象者を調査させるシステムだった。

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