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逃避行(エッセイ)

ロマンスカーで箱根から帰ってきた。どっと疲れた身体を引きずって阿佐ヶ谷のサイゼリヤで食事を済ませ、帰ろうと思ったら彼女がウチに付いて来たいと言いだした。旅行が終わるのが淋しいのだそうだ。断る理由もなく、結局西荻窪の私の自宅まで一緒に帰ってきた。

彼女には時折、そういう子供のような顔を覗かせる。私はその度に少しだけ不安になる。その不安が、彼女と一緒にいることへの不安なのか、将来彼女が親になるときへの不安なのか、私は掴み損ねている。彼女は淋しいと言って付いてきた割には素っ気なく、いまは一人で読書に耽っている。



明日からまた普通の日々が始まる。「普通」とはつまり仕事のことで、つまり人間は仕事のために生まれたということになる。その事実を受け容れないために、私達は懸命に旅に出るのかもしれない。一泊だけの逃避行は呆気なく終わった。ロマンスといえば逃避行だ。

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