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偉いですね(エッセイ)

彼女はときどき「偉いですね」と言ってくる。「ジムにちゃんと行って偉いですね」「休みなのに勉強して偉いですね」。なにもせず一日を棒に振ってしまったとき、出来たことを数え上げて包み込んでくれる。

今日は台本を覚えようと思っていたけれど、低気圧で頭が重くてやる気にならない。久しぶりに歯医者で神経の治療をして、顔の右奥あたりの空白が痛い。家の中まで寒くてコートを脱げない。いつのまにか風呂に入っている。

「偉いですね」。自分に向けて言葉を放ってみる。罪悪感を持ち続けることを、どこか心の免罪符にしていたのかもしれない。紅茶で温まろうとして、湯を沸かしたままだった。お湯を沸かして偉いですね。紅茶を飲まなくて偉いですね。

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