ルーツの話13 (エッセイ)
養成所の初回のネタ見せは、自分でいうのもなんだが、とても上手くいったように思っている。それは養成所に通い始める前に、入念に準備を重ねたからだった。自分が生まれるより遥か前の映像や書籍を浴びるほど見て、私は経験値をパンパンに貯めていた。正直、これだけ準備をしたのだから当然だよな、という印象だった。
「どうしてこんなに面白いことをしているのに、周囲は頭ごなしに私を否定してくるのだろう。」芸人を志していた期間は、手応えと評価の落差にウンザリする日々だった。自分のやりたいことが伝わらず、だんだんと周囲から孤立していくのが悲しかった。私の被害意識は妄想との境界をなくしながら肥大していき、次第に自分を抑えられなくなっていった。
結局、すごく中途半端なタイミングで芸人を諦めることになった。私は周囲とのギャップに耐えられなくなり、逃げるように事務所を辞めていった。養成所に通っていた時間は自分の中で黒歴史になり、思い出したくない過去になった。不完全燃焼感だけが心に残った。
あの日々は、あの日々なりの全力を尽くしていた。だから「もし」や「たられば」は無い。あるとすれば、「もう少し周囲と上手く協力できていれば」だが、所詮それも「妄想」に過ぎないのだった。