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なぜか(エッセイ)

朝、昨日から不機嫌を抑えながら不在着信の折り返しをすると、電話口で名前を何度も間違えられ、話しているうちにイライラが顕れてしまい、受話器を置いたところで上司に注意された。私は昨日からの不機嫌もあり、不貞腐れてしまった。このところの精神不衛生は、自分の仕事にまで支障をきたしている。仕方がないので電話を諦め、机の掃除をして時間を潰し、午後から外出の予定を入れて直帰した。

前の職場にいた「なぜか働かない人」のことを思い出した。中途採用で入社してきたその歳上の後輩は、前職から引き継いだ得意先まわりばかりしていて、けれど売上は一向に上がらず、実は家に帰っているのではないかと陰口を叩かれていた。「忙しい」が口癖で、口を開けば真偽の定かでない苦労話を吹聴していた。窓のない部屋の真ん中の席に座って、電話ばかりしていた。

仕事をせずに頬杖をついていると、新人が不思議な目で見てきた。上司に怒られたら「頭を冷やしている」と答えようと考えていたが、新人は何も訊いてこない。彼の中で私は「なぜか仕事しない人」に昇格したのだろう。めでたいことだ。

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