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小説 #3

いくつかある芸人の所属事務所のHPを巡回して捜せば、男はすぐに見つかった。

渡された写真のうち、一枚は宣材写真のものだった。そのほかの何枚かはSNSからとってきたものだった。フォロワーは三〇〇人ほどで、投稿は素人同然だった。

《今日はもぎたてネタライブ!打ち上げ中(だらしない若者が焼肉屋のテーブルを囲む画像)》
《ネタ作り中。アイデアが煮詰まってきたら散歩で気晴らし!文豪かよ!(公園とおぼしき写真)》
《天に見放された男(アイスクリームを落とした男の背中)》

生きていた私の裏アカのほうが面白かったし、実際に人気だった。誰が興味を抱くのだろうか、ひねりのない投稿ばかりが続いている。肥えた中年男性のアカウントとしては幼すぎる。悪寒がしてきて、スクロールする指を止めた。 

最近の芸人はYouTubeやネットラジオでネタを発信する者も増えてきているようだが、この男は何もしていないようだった。事務所のプロフィールページがひとつと、Twitterにしか情報が無かった。

彼が私にどういう関係があるのだろう。できれば積極的には関わりたくないような男だった。私はお笑いを見に行ったこともなく、芸人の知り合いもいない。そして、閻魔の言っていた「やらなければならないこと」とは何なのだろう。何も心当たりがなく、見当も付かなかった。

とりあえず会わなくてはならない。思えば何年も初対面の人間と会う機会などなかった。どうすれば怪しまれずに接触することができるのだろう。私はまず、ライブを見に行くことにした。

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