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小説 #12

田村は妄想した。

工学部に入り、研究室に通う姿を。田村は寒そうな長袖のTシャツを来て、髪をわさわさと巻いていた。研究室は校舎の4階にあって、丸っこい風が窓から訪れてくる。足元を見下ろせば、春にはサークル勧誘の人々が群れ、秋には自転車が枠線からはみ出て溢れかえっていた。

田村は目の前に置かれた回路を繋いでは、電流の総量を測定した。回路はマシンに組み込まれ、ロボットとして人間の代替の作業を担うことが期待されている。教授は親身に研究の相談に乗ってくれるが、人間への興味が薄かった。

技術は名目上、産業用ロボットとして開発されているが、軍事分野への応用もできる。ただ、その可能性を誰も口に出さなかった。ロボットは殺戮兵器として、自身の判断で人間を殺す。そして、人間は退場して、機械同士が無限に殺し合い続けるだろう。

その未来は望ましいものなのでしょうか?教授は苦笑しながら、技術を使うのは人間だから、と答えた。「私たちはあくまで一研究者であって、世界の一部分でしかない。研究者は発見されるべき技術に適切に光をあてる存在であって、無から技術を産み出すわけじゃない。全能ではないのだ。」

鼻先に煙のような匂いが咲いたが、周りには何もなかった。田村は妄想が盛り上がったことにただ戸惑った。

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