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万年筆(短編)

ボールペンを万年筆に持ち替えると、書く言葉が変化してくる。それは書き味や文字という感覚的なことではなく、文字通り「内容」が変わる。論説を書けば結論が覆るし、恋愛を描けばNOもYESになる。筆を進めていくうちに、知らない地点へと辿り着いている。

だから(大袈裟にいえば)万年筆には魔法がある。いや、それは言い過ぎか。ともかく、書く私は万年筆に操られて言葉を引きずり出される。インクを紙に乗せているうちに語彙が連綿と連なり、目の前に思ってもない文章があらわれる。

海の向こうでは不均衡な戦争が起きていて、大国を味方につけた暴君が市民を虐殺している。どんなことでも攻撃の理由になりうるし、何も正当な理由にはならない。世界というのはつまるところ、ただ玉突きのように分断と暴力が連鎖するだけなのか。共存に必要なのは主義や正義ではなく、もっと根源的な、言葉を信じることのほうだ。

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