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肌と布(短編)

最後まで書ける自信がない、というか、書き出しのことばが見つからないままに書き始めてしまった、何の準備もないままに号砲が撃たれ、方向のわからないまま走り始める。まっすぐ走ればゴールに辿り着けるのだろうか? 校庭は砂利の粒が大きく、採石場のような埃が立ち込めている。

膝丈のズボンを穿かされるのは不服だった。どうしてこうも体操服はみすぼらしいのだろう。装いを矯正するのは躾の第一歩で、誰も似合うことのない服を着せることこそ国家なのである。政治は常に身体の表面で繰り広げられる、闘争は、連帯は、つまり肌と布の擦れだ。

肌というのは不思議な色をしている。柔らかく赤みがかった色の生き物が、地球の覇権を握っている。他の動物や、植物は無機物たちはどう思おう。人間は布を纏い、巧妙に殺し合うようになった。布が人々を殺し合わせているともいえる。号砲が鳴り、すぐさま私たちは駆り出される。

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