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小説 #11

文理選択は田村にとって初めての人生の選択だった。以前に高校受験はあったものの、そのときは偏差値に適った学校に入学すればよかった。

プリントが配られ、先生がぶっきらぼうな声で説明し、クラスがざわついて、田村はやっと選択に迫られていることに気付いた。未来を自分の手で選ぶのだ。

それとなく周りを見回すと、半数近くは腹が決まっている顔をしていた。たいていは得意科目で決まっているらしい。数学が得意ならば理系を選択し、英語の授業で目立つものは迷わず文系を選択していた。

理系を選ぶものは口々に、文系には就職口がないということを主張した。また文系でも経済学部を目指す者は、重点的に数学を勉強するため理系を選択するのだという。文系は私大の政経か国公立の教育を目指すとか、外大に行きたいとかなんとか。興味のない話だった。

田村は心のどこかで自分は死ぬと思っていた。少なくとも、大きな会社に長く勤めることは到底できないと感じていた。学校生活の閉塞感ですら耐えられないのだ。会社勤めなど出来るわけ無い。どこかで人生のレールを踏み外し、誰彼から見捨てられ、惨めにくたばるのがお似合いだ。

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