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壁(エッセイ)

昨日、仕事から疲れて帰ってくると、隣の部屋との壁から断続的に笑い声が響いてきた。声の主は一種類で、どうやらオンラインゲームをしているようだった。ときどき叫び声や悲鳴も混ざってくる。私は壁を叩くことにした。

壁に耳をつけ、奇声を上げるタイミングを見計らう。奇声はなかなか上がらず、笑い声ばかりが続く。オンラインゲームとは爆笑するようなものなのだろうか。私は何をしているのだろう。急に惨めに思えてくる。

奇声が上がって、壁を叩く。声が収まったあとも、執拗に叩く。もう何日も心の底から笑っていない。いつのまにか掌に力がこもる。壁に穴が開かないか心配だった。

奇声はすぐに収まった。その後も笑い声は漏れてきたが、それは許してあげることにした。隣人もせっかくの金曜日にゲームで羽を伸ばしたいのだろう。私は餃子を焼いて食べ、録画したドラマを観た。スマホを触っているうちに夜更かしになっていた。

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