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習作 #19(完成)

 「無人島」

 死んで花実が咲くと、何か不都合でもあるのだろうか。別に悲しい出来事があったわけでも、未来に絶望したわけでもない。ただ、無人島は生きたまま行っても「無人」じゃないよな、とかつまらないことを考えているうちに私の命は尽きていた。そうして私は無人島を目指すことにした。

 葬儀は人が全然来なくて恥ずかしかった。母は気を利かせてLINEの履歴に上から連絡をしていったが、駆けつけてきたのは片手程だった。恋人は最後まで友達のふりをしていた。兄は泣き崩れていたが、誰の葬式でも泣く人だった。

 自宅へ帰る車は、高速の手前でコンビニに寄った。兄がトイレを借りている間、母は冷蔵のスイーツの棚をじっと見つめていた。食欲がある訳ではなかったが、甘い物を眺めていると心が紛れた。母は何も買わず、代わりに兄が紙カップのコーヒーを買った。そのせいで二度もPAに寄ったのを、私は後部座席から静かに見ていた。

 恋人は焼かれた私の小指をこっそりくすね(家族の許可はとらなかった)、上着のポケットに入れて持ち帰った。生前何度も指切りをした小指は、骨になっても少し曲がっていた。翌朝、恋人は人目につかぬように船を漕いで、身体と魂は別々に島に到着した。

 彼は島を反時計回りに歩き、波音の最も澄んだ場所を見つけた。そして小指の骨に白い花を巻き付け、紫色の布にくるんでそっと埋めた。浜に腕ほどの長さの枝を立てて、そこで初めて涙を流した。小指の骨は地中で、アンモナイトが動き出すようにそっと丸まった。

 魂は枝に留まってひと休みし、体力が回復したところで、島にひとつしかない山を目指した。山頂には三十分ほどで到着した。登ってしまえば何もなく、生きていればSNSでも見ていたのだろうが、何もなかったので鼓動の音を聴いた。大きな雲が綺麗な空だった。魂は、海へと吹き降りる風に乗って、島が見えなくなるあたりまで飛んでいったところで、風にほどけて消えた。

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