切り返し(エッセイ)
待ち合わせの駅に早めに到着して、ベーカリーで最近できていなかった読書の時間をとる。廣瀬純の映画評では「ショット/切り返しショット」という言葉が重要な意味を背負っており、優れた作品は、既存の表現の「切り返し」なのだという指摘にハッとする。「賭け金」という語も頻出するが、それはいまいちわからない。
武蔵小金井駅からバスで府中市美術館に足を伸ばし、白井美穂の個展を観る。第一室のレディメイドの作品が面白く、笑いを堪えながら場内を回る。机・椅子・シャンデリアが有機的に、残酷に絡み合う作品が好きだった。二室の映像作品は少し冗長で(そもそも私は美術展の映像作品が好きではない)、三室のドローイングは普通だった。
帰宅し、スペインで買ってきた出汁キットでパエリアを作る。材料を炒めて炊いて、ひたすら待つ。待ちながら、録画したミッシェルガンエレファントの「トップランナー」を観る。ぶっきらぼうな受け応えが放送事故のようで、TVに緊張感が残っていた時代をまぶしく思った。それも切り返しの問題だろう。パエリアは米にうまく火が通っていて美味しかった。