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泡沫(うたかた)の雨音

泡沫の雨音「うたかた」


わたしは現に宙に浮いて
まことに夢の道の途中

亡き父の顔の白い布をめくる

確かにあった父の傘
そこに肩を添えるわたし

泡沫の雨音は虹の扉に導く

柔らかく開くと
昔婆ちゃんのくれた銀色の
腕時計があるが

わたしの右にも左にも入らない

大切な贈り物なのに
原色の三つの世界

わたしは現に宙に浮いて
時はゆっくり回転し
夕日はやがて焦げていく

泡沫の雨音は夢の道

それを見上げたわたしは
「これで鈍い所も終わるだろう」
と思い

銀色の腕時計を右にした

次第に意識は遠くなり
姉ちゃんの叫び声が響いた

白いベッドに横たわるわたし
白いカーテン
心配そうな姉ちゃんの顔

泡沫の雨音は夢の道

わたしの身体は動かなかった
車いすも三十年目になり

わたしは思い出す
父の傘はまだ
開いたままだと

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