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行き着く所

行き着く所

ここはどこだ。
私は一体何をしていたんだろう。この見たこともない殺風景な場所、風当たりがきつく、谷間からのそこ知れぬ音、夢でも見ているのだろうか。
 立ち上がり、辺りを見渡すと、生い茂った木々が天まで届かんばかりに根を張り巡らされている。
 自然だ、ここだけ太古より文明さえ入ることの出来なかった地球上で唯一の秘境ではないのか。
 時がゆっくりと時間をかけて作り上げた芸術、時が許せる限り寝かせて作ったウイスキーのモルトのように。
 素晴らしい。
生まれて初めて本物に巡り会えた。こんな感激は無い。
都会での生活は私にとっていや嫌ほど人間の醜さを思い知らされた。
 何も知らない私が、初めて都会での生活に憧れを感じ、何人にもチャンスがある自由の国アメリカを思ますこの大都会、東京。ついに、その夢が今現実となって私はその中に足を踏み出したのだ。
 私は、何から手をつけようかと、まるで初めておもちゃを手にした赤ん坊のように、好奇心の虜になっていた。
 夢にまで見た東京、夜になっても灯りの消えることのない街、好きなところへ行き、好きなことをし、誰にも後ろめたさを恥じることなく金さえあれば、毎日がバラ色の人生だ。科学技術の推移を結集した街。
 会社の同僚と毎夜の宴会パーティー。「人生お金だけが全てじゃないよな。」「そうさ、何よりも友情が第一!世の中一人きりで生きているやつなんているもんか」
 「大事なのは人の和なんだよ。人の和、わかるか、困った時はお互い様。人と人が支えあってこそ社会は成り立っているんだ。」
 しかし、酔いが回ってくるとそうもいかない。
「何が会社のためだ、安い賃金で使うだけ使ったら後はぽい。
それっきりだ。」
「取れるだけ税金をとって、社会が何をしてくれた、使い捨てなんだよ、所詮下っ端は。
 「好きなように生きるさ」しかし、こうやって本音で話せる友がいると言うものは、非常に嬉しいことでもあった。
あのことさえなければ…
 ある朝、友が来てこう言うのだ。
「俺困ってるんだ。実はある友達にうまい話があると言われ、まぁその友達とは10年来の付き合いだったもんだもんで、ついひと口ぐらいと思ってハンコを押してしまったのが悪かった。
その友達も入社してまだ1年だから上司から成績のことでひどく叱られたらしく、あんまりしつこく頭を下げて泣きつくもんだから。
つい可哀想になって、協力してあげたんだ。1週間後に騙されたと気づいてももう後の祭り。
すまん、女房に黙って使ったお金なんだ。ばれると困るんだ。明日には必ず返す。俺がバカだった、10年代のよしみでつい人をと信じてしまって…」
「もういいよ、俺たち親友だろ。
前にも話したじゃないか。
困った時はお互い様だって。
そんな死にそうな顔すんなよ。大丈夫、何とかしてやるから、気を取り直して。」
 私はあれから友を救うため、一生懸命だった。全て彼の仕組んだ罠に気づくまでは。
彼は、独身だった、彼の会社はこの世に存在していなかった。
そして彼はその日に以来姿を消した。
不思議なことに会社で彼のことを聞くと誰も彼のことを知らないと言う。
いや知らないと言うより最初から彼と言う人物はいなかったと言うのだ。
彼の住んでいたアパートへ初めて行ってみたが、大家さんはそのような人はいなかったと言う、馬鹿な、それでは私はこの世に最初から存在しなかった人物と今まで生きてきたのか。
私は頭がおかしくなったのだろうか。夜のネオン街が絶望の中へ私を招待してくれた…
 あのことさえなければ。
しかし、今はどうだろう。
見渡すと生い茂った木々が、天まで届かんばかりに根を張り巡らされている。
 素晴らしい。
これが大自然だ。生まれて初めて本物に巡り逢えた。
 この感激が誰にわかろう。
しかしこの素晴らしさはどこまで続くのだろう。
 いや、そんなことを考えた時、この幻影はなくなるのかもしれない。
「おい、久しぶりじゃないか。突然、後から懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、君は…やっぱり君だったのか。」「そうさ、その後元気かい。」やっぱり彼は存在していた。
私は頭がどうかしてしまった訳じゃないんだ。
 「あー、君のおかげでひどい目にあったよ、全く。」
「ごめんごめん、あれから気にはなっていたんだけどね。
でももうそんな心配いらないよ。これからは。」「そうだね。俺たちやっと真実に巡り会えたんだ。そうさ…」
夕日が沈み、帰省ラッシュも1段落ついた頃、どの家庭にも明かりが灯り、一家団欒のひととき、つけっぱなしのテレビからニュース番組のアナウンサーの声がする。
「最後に、今年青木ヶ原樹海の中から発見された、自殺者及び行方不明者の数は6体。内2体はすでに白骨化されて、死後1年から2年経っている模様。ニュースを終わります。」



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