メタバースのビジネスモデル考察
こんにちは、Synamon COOの武井です。
さて、今日は最近メディアで話題の「メタバース」についてのお話です。
7月末にFacebookが「メタバース企業になる」と宣言をして以来、ここ数ヶ月で「メタバース」という言葉を目にする機会が急に増えました。
ビジネスモデルオタクを自負している僕としては、メタバース上でどんなビジネスモデルが成り立つのか興味がありまして、自分なりの分析と考察をまとめておこうと思います。
「メタバースとは何か?」というテーマは色んなメディアが記事にしてるので詳細の解説は割愛しますが、もの凄くざっくりいうと「3DCG技術でバーチャルな世界を構築し、複数人が同時にそのバーチャル空間にアクセスした上で、様々な活動を出来る仕組み」と考えてもらえると良いかと思います。
SF作品では、サマーウォーズのozや、ソードアート・オンラインのアインクラッド、レディ・プレイヤー1のOASIS辺りがイメージに近いかと思います。
ちなみに本記事で紹介するメタバースは、「クローズドメタバース」の話が多いです。
「オープンメタバース」こそが真のメタバースという方もいらっしゃるかと思いますが、まずはビジネスモデルがイメージしやすいクローズドメタバースの理解を深めることに話を絞って進めていきます。
※オープンメタバースの定義は、Off Topicさんの記事にある以下が分かりやすいです。
"「オープンメタバース」とは様々な体験、プラットフォーム、世界を相互運用性があるメタバースのこと。すごく簡単に説明すると、一つのアイデンティティーで全く違うオンライン・オフライン世界へ障壁なく移動出来ること。フォートナイト、Roblox、Oculusを同じアバターやデジタルアセットを活用できる世界のこと。"
また、ビジネスモデルを分析する軸として、ネットビジネスのマネタイズ手法の王道である4つの軸+その他という分類で見ていきます。
1.課金モデル
2.広告モデル
3.仲介モデル
4.ECモデル
5.その他
1.課金モデル / コンテンツ、ゲーム、ライブなど
メタバースにおいて、1番イメージのしやすいビジネスモデルが課金モデルです。
課金モデルとは、ユーザーからコンテンツやゲームなどを楽しむための利用料をもらう方法です。
現在メタバースに近いサービスと言われるフォートナイトやVRChatも、基本的に課金モデルになっております。
どのサービスも、サービスの利用料自体は無料だけど、サービス内のアバターやスキン、アイテムの拡充には課金が必要というモデルが多いです。
課金モデルの場合、「課金の対象が何か?」を理解することが大事なのですが、メタバースの場合は課金対象の選択肢は無限大にあると思っています。
というのも、前述したアバターやアイテムなど、分かりやすい対象以外に、メタバース上では3DCG技術を活用することで、リアルの体験をデジタル化して表現することが出来るため、今後はあらゆるエンタメ、ビジネスのコンテンツがメタバースに乗っかってくる可能性があります。
例えば、代表的なものでいうと「音楽ライブ」などは既にフォートナイト上でも実施されてますし、日本でもVARKのようなライブ向けサービスが出てきています。
他にも、ぱっと思いつくだけでも下記のようなコンテンツが課金の対象としてメタバース上に展開される可能性があり、どのジャンルも実験的な取り組みは既に先行した事例が出てきています。
・ゲーム
・音楽ライブ、フェス
・スポーツ
・旅行
・美術館や博物館、水族館
・フィットネス
・映画やドラマ
・演劇やミュージカル
・お笑い・バラエティ番組
・ファンクラブ、握手会
・英会話や塾
・オフィス、会議室
etc.
現在は現実の代替となるコンテンツが先行してる印象ではありますが、徐々にメタバース上でしか体験出来ないオリジナルのコンテンツが増えてくると、メタバースにアクセスするユーザーも増えてくるのではないかと期待してます。
2.広告モデル / SNS、メディア、タイアップなど
2つ目に紹介するのは、広告モデルです。
広告モデルというと、古くからあるウェブサイトのディスプレイ広告や、最近だとYouTube等の動画広告などのイメージが強いですが、企業とのタイアップ広告などもこのモデルに含まれています。
広告モデルは基本的にはユーザー数自体が多くないと成り立たないモデルのため、ユーザー課金と比べるとまだ事例は少ない印象です。
しかし、世界に1億人以上のユーザーを抱え、メタバースに最も近いサービスとも呼ばれる「Roblox」では、既にナイキやグッチとコラボするなど、有名ブランドとのタイアップ広告の事例は出てきています。
先日リリースされたRobloxとVANSとのコラボの記事を読むと、単にRobloxのユーザー数が多いという理由だけでなく、ブランドの世界観を3D空間に表現出来ることにVANS側は価値を感じてるのだと思います。
Vans World は、House of Vans などのスケートパークにインスパイアされたもので、ファンが友達と一緒にオーリーやキックフリップを練習できる永続的な3D空間となっている。
日本でもバーチャルSNSを目指す「cluster」がポケモンとコラボした企画を展開するなど、3DCG技術でブランドの世界観をバーチャル空間に反映するといった取り組みは事例が増えてきている印象です。
有名企業とのタイアップの事例が増えている一方、GoogleやFacebookのようにメタバース内に広告配信が出来るプラットフォームやアドネットワークはまだ成功した事例は出てきていない印象です。
これは、単にメタバースのユーザー数が既存のWebサービスと比較すると少ないためアドネットワークが成立しにくいという点もありますが、どのように広告を出すとユーザーが違和感なく受け入れるか、最適解が見つかってないという問題もありそうです。
イメージとしては、先程も共有した「cluster」上で実施されているバーチャル渋谷のように、バーチャル空間内の看板やサイネージ部分に広告が掲載されるようなものが、メタバース内の広告のフォーマットになるのかなと思います。
ただ、PV数やクリック数をどう計測するかなど、既存のウェブ広告と比べた場合の費用対効果の出し方をどうするかという点は課題が残っている印象です。
この辺りは、広告がメイン事業であるFacebookが「Horizon」を筆頭にメタバース構築を全力で進行中ですし、VRヘッドマウントディスプレイ側にアイトラッキング等が標準装備されてくると取れるデータが格段に増える可能性はあるため、徐々に何かしら新しいフォーマットが確立されてくるのではないかと期待してます。
3.仲介モデル / マッチング、プラットフォーム
3つ目は、CtoCやBtoBtoCに代表される仲介モデルです。
仲介モデルの代表的な例では、メルカリのようにCtoCでのマッチングを促し手数料をもらうパターンや、リクルートの人材紹介サービスのように企業と個人を繋ぐことで手数料をもらうモデルなどがあります。
※仲介モデルは、プラットフォームビジネスと言い換えることも出来ます。
メタバースは、特性の1つとしてユーザー自身がコンテンツ制作にも関わることが挙げられます。
実際に、先程紹介した「Roblox」では、「Roblox」の運営側は基本的に自分達ではゲームを作っておらず、ユーザーの一部がクリエイターとして作ったゲームを公開して、他のユーザーが遊ぶ仕組みとなっています。
「Roblox」では、ユーザーから得た課金の約25%をクリエイターに還元するようにしているため、「Roblox」自体はゲームコンテンツの仲介手数料で成り立っているサービスといえます。
※余談ですが、「Roblox」の開発者への還元が通常のプラットフォームの手数料と比べると著しく低いのではないか?という指摘も出てきているようです。
一般的にゲームの販売事業者はパブリッシャーが自社プラットフォームで得た収益の30%を受け取り、70%を開発者に渡している。Robloxでは開発者への報酬はわずか25%で、しかも報酬の支払いはエンゲージメントに基づいているという。
ただ、先程紹介した図にもあるように、AppleやGoogleのストアに払う30%の手数料が高すぎるのではないか?といった事情も絡んでるおり、メタバースのもう1つの有力候補である「Fortnite」を運営するエピックゲームズは、Appleと訴訟をしているような状況だったりもします。
少し話は脱線しましたが、仲介モデルで成り立つビジネスを考える時には、「課金モデル」で挙げたコンテンツをイメージしながら考えると分かりやすいです。
例えば、音楽ライブや旅行、フィットネスなどの領域で考えても、メタバースのプラットフォームを作れる会社と、各ジャンルのコンテンツホルダーやクリエイターが乖離する可能性が高いため、プラットフォーム側が手数料をもらって、クリエイターとユーザーをマッチングさせるというモデルが成り立つようになると思います。
さらに、NFTが普及するとデジタル上の創作物についてもオリジナル性が担保できるようになるため、クリエイターがメタバース上で作った作品をユーザー間でマッチングさせる仕組みなどはより一層普及すると感じています。
また、PCからスマホにデバイスシフトが起きたことで、ヤフオク→メルカリのようにプラットフォーマーが変化し、スマホの登場によってUberのような新たなマッチングビジネスが可能になりました。
これと同様に、メタバースを支えるXRデバイスや、NFTのような技術が普及してくると、どのようなゲームチェンジや新たなマッチングが起こり得るかを妄想してみるのも楽しいと思います笑
4.ECモデル / 直販、モール
4つ目に紹介するのは、ECモデルです。
ECモデルといっても、AmazonやD2C企業に代表されるような直販モデルもあれば、楽天やZOZOTOWNのようなモール型、ShopifyやBASEのようなASP型ネットショップなど、いくつかの分類があります。
各タイプでは、費用や手軽さといった店舗側へのメリット・デメリットが分かれているため、メタバース上でのECモデルも、おそらく全てのバリエーションが出てくるかと予想しています。
ECモデルの先行事例としては、三越伊勢丹が「REV WORLDS (レヴ ワールズ)」という独自サービスを構築し、オリジナルセレクトショップの提供をスタートするなど、積極的な取り組みをしています。
※現在は、実際の購買はオンラインストアに遷移して実施する形です。
メタバース×ECモデルはまだ事例は世界的にも少ないですが、個人的にはとてつもなくビジネスポテンシャルの高いテーマだと感じています。
というのも、メタバース上では3DCGで立体的に物や空間を表現することが可能で、さらにVR・ARデバイスが普及してくるとサイズ感や奥行き感など含めてインターネット上で確認することが出来るようになるためです。
ちょうど先日、ホンダが日本で初めて新車のオンライン販売を開始するというニュースが出ていましたが、メタバース上ではこうした大型商材の販売を行うのは相性が良いと思います。
※とはいえ、まだ触覚や乗り心地等はVR上で再現が難しいため、まだ本格的な普及へのハードルは高いです。
また、空間をそのまま再現できるという特性は、ウィンドウショッピングのような衝動買いがハマる商材との相性も高いです。
僕個人も、普段はAmazonで本を買うことが多いですが、リアルの書店をぶらぶらしながら面白そうな本を探す体験は既存のECサイトではまだ得られてないため、こういった体験をメタバース上で出来るようになったら嬉しいなと妄想してます笑
このように可能性も大きいECモデルですが、普及を阻む要因として大量の商品の3Dデータをどのように用意するかという問題も大きいです。
今後、写真や動画を撮るのと同じくらい手軽に3Dデータを用意できるような技術の進歩が進んでくると、ECモデルの普及が進んでくるのではないかと期待してます。
5.その他 / BtoB、SIer、コンサル
最後に紹介するのはBtoB向けのプロダクトやソリューションです。
メタバースをビジネス活用しようとする企業が出てくると、それを裏側で支える技術支援やシステム開発、コンサルティング等のニーズも増えてきます。
これは、ゴールドラッシュでいうツルハシを売るモデルとして有名な定番のビジネススタイルですが、インターネットやPC、スマホの黎明期と同様に、メタバース時代でも支援側のニーズは非常に大きくなると予想しています。
昨今のスタートアップでは、BtoB SaaSが全盛期という印象ですが、メタバースやXR関連に関しては、SaaS化出来るほど顧客側のニーズが成熟していないため、おそらくここ数年は受託に近い個別開発やコンサルの事例が先行すると思います。
スタートアップとしては指数関数的な伸びを作りにくいモデルではありますが、技術やノウハウ、実績を着実にストックして経営面での体力をつけつつ、マーケットが本格普及するタイミングで大きく張るという戦い方は、AIなどを含む先端テック領域では王道となりつつある印象です。
※一方で、受託やコンサルから、自社サービスモデルに事業・組織を切り替えるのは難易度が高いという普遍的な課題もあるため、経営観点では非常に悩ましいテーマではあります。
まとめ
というわけで、今回はメタバースのビジネスモデルに関するお話でした!
メタバース関連のトピックでは、NFTなどブロックチェーンを絡めたテーマの話もあり、そうなった時のビジネスがどうなるのか?というテーマも個人的には非常に興味深いのですが、今回は導入編ということでオーソドックスなビジネスモデルの話を中心に書きました。
メタバース関連は僕も情報インプットや思考実験を今後も続けていきたいと思っているので、また何か新しい切り口で記事書けそうなタイミングがあれば書いてみたいと思います!
最後に、少し宣伝っぽくなりますが、SynamonもXR文脈でソリューションサービスを提供してるので、興味ある方は覗いてみてください!
また、MeetyでメタバースやXR業界の今後はどうなるの?というカジュアル面談もオープンしてるので、もっと詳しい話を聞きたい方はぜひお気軽にご連絡ください!