どうしてドイツに来ちゃったんだろう|#1 AO CMF Fellowship
2021年10月、コロナ禍にもかかわらずドイツに降り立ってしまった口腔外科専門医(アラフォー)。短期留学プログラム (AO CMF Fellowships) へのアプライ、パンデミックによる二度の延期、実際にドイツにたどり着いてからの顛末をお届けします。
初回は筆者が AO CMF Fellowships プログラムと出会ってからアプライするまでの記録です。
1. AO CMF Fellowships プログラムとの出会い
歯科口腔外科で働き始めて3年ほど経過した頃、AO CMF という財団が主催するセミナーを受けました。
AO CMF は、1958年にスイスのダボス Davosで発足した
AO (Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen) という、骨折治療を研究する整形外科のスタディーグループがもととなっています。
1974年に、AO の頭蓋顎顔面領域(首から上)を専門とする部門として、
AO CMF (= CranioMaxilloFacial) が設立されました。
AO CMF は年間100を超えるセミナーを世界各国で行っており、3年目の私はそのうちの一つに参加したのでした。
口唇口蓋裂治療をメインとする病院で働いていた私は、顔面外傷、顎変形症、顎骨再建といった、歯科口腔外科のなかでも花形ともいうべき、顎骨を扱う治療に明るくなかったため、それはもう衝撃を受けたわけです。
そのセミナーの中で、AO CMF Fellowships という制度が紹介されていました。
AO CMF Fellowships は1984年に始められたプログラムで、年間70名弱の医師・歯科医師が AO 財団から奨学金をもらいながら、世界各国の病院で Clinical Fellow (日本語だと修練医?) として研修が受けられるというものです。
その時は「ふーん」程度にしか思っていなかったのですが、いくつかセミナーを受けているうちに、自分が目指す臨床と、所属する施設で学べる内容との間に乖離を感じるようになり、
(海外で研修を受けてみたいな…)
という思いを抱くようになりました。
2. AO CMF Fellowships にアプライするまで
そこで当時の上司に相談したのですが、あまり色好い返事はもらえず(ダメと言われたわけではないが、そこまでしなくていいんじゃない? といった感じ)、大学院に入ったり、結婚したり、長女が生まれたり… としているうちに、プログラムのことはなんとなく忘れかけていました。
ところが、2018年に変化が訪れます。
台北で開かれた ACOMS (Asian Congress on Oral & Maxillofacial Surgery) という学会で、この論文をもとにした講演を聞き、衝撃が走ったのでした。
顎変形症手術を行う際に、上顎の位置決めの安定性というのは非常に大きな問題となります。日本では依然としてダブルスプリント法が標準だと思います。
この論文では、術前シミュレーションをもとに、骨切り線、スクリューの挿入位置までデザインされた、カスタムのカッティングガイドと、固定用プレートが提供される CAD/CAM システムを使用しています(画像は上記論文より引用)。
こうすることによって、スプリントは下顎の位置決めのときの1枚で済むわけです。しかも、プランニングとのズレが 0.39 mm (中央値) という衝撃。
まあ後になって調べてみると、私が不勉強だっただけの話で、カッティングガイドとカスタムメイドインプラント (Patient Specific Implants という) は、この分野ではホットなトピックだったんですけど。
当時、すでに歯科口腔外科で働きはじめて10年を超えており、日常臨床にマンネリを感じていたこともありますし、口唇口蓋裂を専門とする以上、顎変形症手術は避けては通れない術式でもあると感じていました。
そこで家族と職場に許可をもらい、2020年のプログラムにアプライすることにしました。
3. アプライの実際
AO CMF Fellowships は毎年4月に翌年のプログラム参加者の募集が行われます
(2022年は Covid-19 パンデミックの影響で募集していないようです)。
アプライの条件と必要書類は AO CMF Fellowships のページに記載されています。
頭蓋顎顔面領域の専門プログラムを修了していること
特に細かいことは規定されていないので、歯科口腔外科、形成外科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科などを専門にしていれば大丈夫だと思います。
少なくともひとつの AO CMF の教育活動=セミナーを受けていること
現在はパンデミックの影響でウェビナーが大半を占めていますが、修了証 Certificate を受け取れるセミナーでないとダメです。私は日本の Principle Course を受けていました (現在の Management of Facial Trauma Course に該当) 。
AO CMF のメンバーであること
言うまでもありません。
必要書類
・パスポートのコピー
・Curriculum Vitae (履歴書) : 様式の指定はありません。学歴、職歴、論文等の業績ぐらい書いとけばいいと思います。
・医学部、歯学部の卒業証書:卒業した学校に英文証明書を発行してもらいましょう。
・AO CMF のセミナーの修了証 Certificate
・推薦状:所属長と AO CMF メンバーの計2通。施設の公式レターヘッドと署名が必要です。私は病院長と形成外科の教授にお願いしました (歯科口腔外科にメンバーがいなかったので…)。
・Intent Letter 1通:趣意書? 書いた記憶がありませんが、入力フォームがあった気がします。推薦者 (AO CMF member) との関係、興味のあるジャンル、研究テーマ、Fellowship を受ける目的とゴール、銀行口座なんかを書きました。
・パスポートサイズの写真:写真屋さんで撮影してもらい、画像データを入手しましょう。
・健康診断書:トラベルクリニックなどで作ってもらう場合は、1ヶ月前には問い合わせておきましょう (私は職場で作ってもらいました)。
・英語の能力の証明 : Cambridge B2 か、それに相当するものとされています。私はTOEFLを受けましたが、恥ずかしながら B1 相当だったと思います。それでも通りましたが…。IELTS はたぶんオーケー、TOEIC や英検はアカンと思います。
これらを準備し、2019年4月にアプライしたのでした。
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