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どうしてドイツに来ちゃったんだろう|#6 顎骨再建

2021年10月、コロナ禍にもかかわらずドイツに降り立ってしまった口腔外科専門医(アラフォー)。短期留学プログラム (AO CMF Fellowships) へのアプライ、パンデミックによる二度の延期、実際にドイツにたどり着いてからの顛末をお届けします。
第6回は下顎骨再建。

ハノーファー医科大学(MHH)での2ヶ月間の実習を終え、帰国しました。ドイツ国内でのオミクロン株の流行の影響で、検疫所が用意してくださったホテルで隔離中です。
隔離施設内の様子はSNS等に投稿しないように、とのことですので詳しくは書きませんが、朝早くから食事の準備や検査など対応されている検疫所の職員の皆様には頭が下がります。

前回の記事はこちら。

ドイツ滞在中は毎日レポートを提出する必要があったので、手帳にかんたんにメモを取り、ウェブシステムから入力するということを繰り返していました。
結果的に、2ヶ月間で25件のアシスト、50件の見学をしていたようです(一部記録漏れあり)。
途中、看護師のユニオンのストライキで手術が止まっていたことを考えても、まずまずの件数ではないでしょうか。

今回は最も印象に残った下顎骨再建について書いてみます。

MHHでの顎骨再建の概要

MHHの口腔顎顔面外科 (Mund-, Kiefer-, und Geschichtschirurgie: MKG) では、口腔癌の一次手術も行っていますが、どちらかというと顎骨腫瘍や顎骨骨髄炎による手術後といった、顎骨の二次再建が多数を占めています。
実際、口腔癌の大半を占めているはずの舌癌は2, 3例のみ、一方で下顎骨再建は6, 7例経験できました。
手術が2列並列のため見学・介助できなかったものもあり、実際に行っている件数はもう少し多かったと思います。

基本的には血管柄付き腓骨皮弁でしたが、血管柄付き肩甲骨皮弁や、腸骨ブロックによる再建もありました。

一次再建 or 二次再建 ?

他院で手術後の二次症例や、放射線性骨髄炎の術後が多いというのもあると思いますが、基本的にはカスタムメイドインプラントでの一次再建を行った後に、二次再建として硬性再建を行う症例が大半でした。
逆に、一次再建の場合はカスタムメイドインプラントとカッティングガイドを使う Computer Assisted Surgery (CAS) が基本です。これは私の施設でも DePuy Synthes のTruMatch Reconstruction を使っているので、目新しさはありませんでした。
MHHではKLS Martinのシステムを使用していました。

血管柄付き腓骨皮弁

顎骨再建は口腔・頸部の操作と皮弁挙上の2チームに分かれておこないます。原則として再建する顎骨と同側で、対側にベッドごと少し回転させた状態で手術を行います。

皮弁採取は頸部の操作とおおむね同時に開始されます。移植骨の加工までにはだいたい頸部の操作は完了しますので。

二次再建が多いこともあり、移植骨の加工が問題となります。カッティングガイドを使っている症例もありましたが(写真は撮りそこねた)、KLS MartinのL1 Mandible ReconGuide というシステムを使う症例がいくつかありました(日本未発売?)。

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(KLS Martin websiteより)

どういうことかといいますと、
再建したい顎骨の範囲と骨切りの位置を、腓骨に転写できるというシステムです。

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ある程度、テイラーメイドの形態になってはしまうのですが、調整しながらレシピエント側に入れるよりは遥かに効率的だと感じました。
加工部や、残存骨への固定は、これも専用のプレートを用いるとベンディング不要です。

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ほかの遊離皮弁移植も含め、吻合血管は動脈は上甲状腺動脈、顔面動脈が、静脈は外頸静脈、総顔面静脈、内頸静脈などが用いられていました。血管吻合は指導医と専攻医のペアで行うことが多く、動脈1本・静脈2本で1.5〜2時間の作業時間でした。

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cosmetic の問題もあるため、皮弁の血流確認にはモニタリングの皮島は使わず、吻合した動脈に小さなプローブをつけたドップラーを用いていました。

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私の所属する病院では形成外科で再建をお願いしているため、個人的に再建外科には明るくないのですが、この方法は初めて見たこともあり、非常に興味深かったです。ドイツでもそんなに一般的な方法ではないとのことでした。
なお、上顎・口蓋のような直視が難しい部位に対する前腕皮弁等のモニタリングにも使用していました。

滞在中に1例、コンパートメント症候群のため、腓骨に対する陰圧閉鎖療法を適応した症例がありました。

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血管柄付き肩甲骨皮弁

腓骨皮弁による再建を拒否していたため、遊離肩甲骨皮弁を用いた症例もありました。
上腕を外転させることで、仰臥位のまま、肩甲回旋動静脈を剖出、骨切りをしていました。母校や現所属の病院では体位変換を行っているため、その点が違いでしょうか。

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頭頸部以外のシェーマは描きなれていません。。

腸骨ブロック

口底癌の術後で前腕皮弁移植を行っており、吻合血管の剖出が期待できない症例では、腸骨ブロックの移植も行っていました。採取方法は特に珍しくなく、上前腸骨棘から腸骨稜にアプローチ、後面を残して採取していました。

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まとめ

・一次再建ならCAS(カスタムメイドインプラント+カッティングガイド)
・腓骨皮弁ではCASまたはKLS martin L1システム。モニタリング皮弁は使わずドップラーで血流を確認
・肩甲骨皮弁は仰臥位のまま採取
・吻合血管が期待できないときは腸骨ブロック

今回はこのへんで。




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