引用日記⑳

「どこの犬とはどうしたのです? わたしですよ! 白ですよ!」
 けれどもお嬢さんは不相変気味悪そうに白を眺めています。
「お隣の黒の兄弟かしら?」
「黒の兄弟かも知れないね。」坊ちゃんもバットをおもちゃにしながら、考え深そうに答えました。
「こいつも体中まっ黒だから。」
 白は急に背中の毛が逆立つように感じました。まっ黒! そんなはずはありません。白はまだ子犬の時から、牛乳のように白かったのですから。

芥川龍之介「白」
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/149_15204.html
(初出:「女性改造」1923(大正12)年8月)

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