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残酷な世界との向き合い方

1.残酷な世界

 昔の本を読んでいると、その本に関わる人が大変若くしてなくなっていることがあります。例えばローマ時代で悪逆非道な皇帝として有名なネロは30歳で亡くなっています。日本でいえば幕末の志士を育てたことで名高い吉田松陰も29歳で生涯を終えています。だいたいにおいて日本で平均寿命が50歳を超えたのは太平洋戦争後のことなのです。

 一方、数年前に「ライフシフト 人生百年時代の人生戦略」という本がベストセラーになったように、現在では少なくとも先進国では80歳を越える寿命が当たり前になっています。実際に私の知人で75歳を超えてもテニスコートを走り回っている方がいます。いわゆる健康寿命も伸びているのですね。

 これに対して世の中はどうなっているかというと、70歳までの定年延長などが囁かれていますが、実際問題として60歳から65歳まで働いて、その後は年金をもらいながら貯金を食い潰していくという生活設計になっていると思います。この記事を読んでいる人は30代より若い人が大半でしょう。今後50年間で10歳は平均余命が伸びることが期待されていますから(10年で2歳くらい伸びる)、皆さん90歳まで平均で生きることになるでしょう。そうなると、65歳、70歳から90歳までの20~25年間がいわゆる「老後」ということになるわけです。ずいぶん長いですね。上で挙げた本では、現在でいう「老後」の期間における個人の財務状況を鑑みて、投資とかしてちゃんと備えましょうね、と書かれているそうです(未読です、すみません)。

 SNS上に流れる様々な人の発言を見ていると、大きな流れがあることに気がつきます。それは次のような構成になっています。

(1)人生100年時代なので、好きなことを仕事にしないと続かない。

(2)情報は溢れているので、それらを基にして「成長」し金融資産を増やすべきであり、それにより経済的自由が得られる。

(3)ファンやフォロワーを増やして、そこに貢献して生計を立てよう。

(4)とにかく成功した人を真似して「成功」できるように日々行動し、成長しよう。これは「誰でもできる」ことだ。

(5)経済的自由を得たならば、それを多くの人とシェアして次のステージにみんなで行こう。

(6)月収100万円なんて簡単だ。努力することで誰でも必ず達成できる。

 読んでいただければわかるように、いわゆる「意識高い系」な言説が多いのです。これらは良く考えるととても残酷な内容です。つまり、

『好きなことを仕事にしないとだめ。経済的自由が得られていない人は、情報感度が低く、努力不足である』

と言っているわけです。なんだか極端ですよね。

 さて日本において年収1000万円超えの人は、どのくらいの人数いるのでしょう?統計を見てみましょう。

2.統計データの語ること

 ネットで簡単に得られる統計(例えばhttps://doda.jp/guide/heikin/age/)によれば、30代で年収1000万円以上は全体の1.2%です。100人に1人ですね。ボリュームゾーンは年収300万円~400万円(27.4%)、400万円~500万円(25%)なので、フツーの人の倍以上稼ぐ人が1.2%いるといった感じです。なるほどっていう数字ですが、SNS上の雰囲気とはだいぶ違います。もっと多い気がしてませんか?「億り人」なんていう資産が数億にも及ぶ人の話を聞くことも頻繁にあると思います。そういう人はどこにいるのでしょうか?別の統計を見てみると、日本全体で5500万世帯のうち純金融資産が1億円以上の富裕層は200万世帯となっています(2018年の統計https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2018/cc/1218_1)。年齢別で見てみると、31歳以下は1%となっています(2010年の統計)。富裕層の8割は56歳以上です。あらら、ずいぶん年齢を重ねないと富裕層はいないわけですね。その割にSNS上では「成功者」がいっぱいいるように見えるのはなぜでしょう?二つの理由があることに皆さんも気がついていると思います。

3.生存者バイアスと詐欺

 一つ目は「生存者バイアス」です。SNSで発言をする人は「成功」している人です。失敗している人は発言しません、単純ですね。ということでSNSには、「努力」して「成功」した人が溢れているように見えるわけです。

 二つ目は「詐欺」です。「成功」していると自称している人は、情報商材を販売していたり、高額な有料セミナーを開催したりしていませんか?「自己投資」を勧めていませんか?1万人のフォロワーがいて0.1%の人が10万円の情報商材を買ったら100万円ですね。たちまち月収100万円です(笑)。その情報商材は本当に10万円の価値があるでしょうか?

 詐欺師の常套句があります、「この機会を逃したら二度と無い」「チャンスの女神は前髪しか無い」「自己投資ができない人は永遠に成功できない」etc. まあ有り体に言ってしまえば、焦らせてゴミを買わせるわけですね。

 さて、上のようなことはわかっているよ、という人も多いと思いますが、いざそのような情報に触れると心が少し動揺すると思います。「月収100万円か、いいなあ…」なにしろ統計上も全体の1%ですからね、現実にいることはいるのです。直接接した情報が嘘か本当かは置いておいて、羨ましくなるわけです。焦るわけです。経済的自由という言葉も憧れを生みます。

4.「好きなことで、生きていく」教の弊害

 数年前、YouTubeのCMで「好きなことで、生きていく」というコピーがありました。上で紹介したネット上の言説で、「人生100年時代なので、好きなことを仕事にしないと続かない。」というのがありましたが、これは大きな迷いを生みます。なぜなら多くの人がついている仕事は、その人がそんなに好きではない仕事だからです。「好きなこと」を探すのは自分探しと同じで、特別な場合以外には自分の後頭部を探し回るのと同じ結果になります。また単純に「好きなこと」をマネタイズすることは、そんなに簡単なことではありません。ましてやそれで生計を立てられる人は幸運な人だけです。好きこそものの上手なれ、ですが上手だからと行ってそれで生活ができるとは限らないのです。その順番を間違えると当て処の無い自分探しの旅に出て不満を溜めることになります。

5.とりあえずのまとめ

 綺麗事は言いません。目の前にある仕事に真摯に取り組みましょう。つらすぎるなら辞めて他の仕事を見つけましょう。今あなたがいるところからしか出発できません。迷ったままランダムに行動することは疲労しか産みません。もちろん年齢が低いうちは色々手を出してみるのはいいかもしれませんが、ほとんどが失敗に終わります。失敗それ自体は全く問題が無いのですが失敗から立ち直れないとまずいです。他人やネット上の「情報」に振り回されること無く、自分の頭と常識を働かせて地道に進むことが最善手であることが多いというつまらない結論からスタートしてください。幸福になるにはどうしたらよいかというのは、私が書いた他の記事を見てもらうとして、この記事では残酷な世界、つまり競争相手が世界中にいて、上を見たら限りが無く、失敗すると立ち直れない可能性がゼロではないというクソゲーになった現代日本でいかに迷わずに生き抜くかという点で、いくつかのお話をさせてもらいました。簡単に言えば、とにかく現実から出発して、したたかに立ち回れ、詐欺師の養分になるな、ということに尽きます。幸運を祈ります。私の幸運も祈っていてくださいね(笑)



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