1547日目のカンファレンス | 1.開催失敗から再開まで -- PHPカンファレンス関西2024回顧録
はじめに
技術カンファレンスをご存知でしょうか?
エンジニア向けに開催され、特定の技術分野についてさまざまな講演を聴いたり、エンジニア同士のコミュニケーションを行う大型イベントのことです。
こうした文化に触れる機会がなかったエンジニアに向けて、簡単に説明すると、100人近くが参加する「大規模な勉強会」や「気軽な学会」といったイメージでしょうか。技術カンファレンスは、エンジニア同士の交流を深める場として、通常は企業や個人からの協賛金をもとに運営されています。
「勉強会」と聞くと、堅苦しくて、つらくて、面白くなさそう……そんな印象を持たれるかもしれません。しかし、実際の技術カンファレンスはとても楽しいものです。ピシッと背広を着る必要はなく、登壇者も私服でラフに発表を行っています。また、自分がよく知らない分野でも、温かく受け入れてくれる雰囲気があります。
もし、あなたが業務でPHPを使っているなら、ぜひ近隣で開催されている「PHPカンファレンス」を探してみてください。PHPカンファレンスは、きっとあなたの近くで開催されています。
:
:
:
:
「PHPカンファレンス関西2024」は、2024年2月11日に大阪で開催されたPHPに特化した技術カンファレンスです。本イベントでは、22の企業・団体からのご協賛をいただき、34名のエンジニアが講演を行いました。また、400名を超える参加者にご来場いただきました。
私は、このカンファレンスで実行委員長を務めました。
このカンファレンスは、2018年以降6年間も開催されていませんでした。また、私が実行委員長に就任した2020年には、COVID-19によるパンデミックの影響で開催を断念せざるを得ませんでした。(詳しくは PHPカンファレンス関西の公式note をご覧ください。)
こうした状況下で、多くの方々や企業の協力を得て、ひとつのイベントを開催することは容易なことではないと同時に、非常に貴重な経験でもありました。実際、数多くの人々に支えられながら、様々な課題を乗り越え、やっと開催に漕ぎ着けることができました。
この記事の目的は、ほぼゼロに戻ってしまったカンファレンス運営を6年ぶりに復活させた経験を記録し、今後のPHPカンファレンス関西、さらには他のカンファレンス主催者の参考になる情報を共有することです。私自身の実行委員長としての振り返りを交えながら、開催時の内容や、PHPカンファレンス関西をどのように復活させたのかを、全4回に分けて記録していきます。
なお、この内容はPHPカンファレンス関西の公式noteに記載するか迷いましたが、私個人の活動に関する内容が多いため、個人的なnoteに記載することにしました。
第一回の本稿では、2020年の開催断念と、2024年の開催決定までをお話しします。
目次
この記事は連載記事(全4回)の第1回です。
第1回:開催失敗から再開まで
なぜカンファレンスにこだわった?
所属組織で感じていた閉塞感
実現したい周りを巻き込むコミュニティ
PHPカンファレンス2020年
2020年の実行委員長になるまで
無謀だった2020年開催
コロナ禍から開催まで
コロナ禍での環境の変化
再認識したカンファレンスの必要性
実行委員会の発足
仲間集め
第2回:組織づくり
第3回:実行委員長
第4回:ぺちこん関西2024は成功か?失敗か?
なぜカンファレンスにこだわった?
先に述べた通り、このカンファレンスの開催は2020年に開催を断念してから4年もかかっています。また、日本各地ではPHPに関連するカンファレンスが多数開催されており、2024年だけでも関西以外に7つものカンファレンスが開催されました。
カンファレンスの数だけで言えば十分なイベント数ですが、それでも、私にはどうしても関西でPHPカンファレンスを開催しなければならない理由がありました。
所属組織で感じていた閉塞感
私が初めて技術カンファレンスに参加したのは、会社の先輩に誘われて訪れたPHPカンファレンス関西2017でした。正直なところ、経験の浅いエンジニアだった当時の私にとっては、どの講演も難解で、内容を十分に理解することはできませんでした。(率直に言えば、席に座りながら「ふんふん」と頷いているだけの状態でした。)それでも、このイベントは私にとって非常に魅力的な場でした。
当時、私は業務として歴史の長い自社サービスの運用保守に従事しながら、以下のような閉塞感を抱いていました。
当時の私が業務に感じていたこと
自社サービスなので使う技術が固定化されている
メンバによって知識に差があり話が通じない時がある
現在のトレンドがわからない
古い自社サービスの保守運用を行う場合、そのサービスで使用している技術が固定化され、新しい技術に触れる機会がほとんどありません。そのため、新しい技術のキャッチアップは自主的に行う必要がありました。しかし、キャッチアップはメンバ各自に任せられていたため、取り組む人と取り組まない人、さらには他の組織から新たに加わったメンバと既存のメンバの間で知識の差が生じる状況でした。この状況では、現在のトレンドを把握するのも難しく、技術に関する議論がうまく進まないこともありました。勉強しても業務に直接活かせる場が少ないどころか、周囲と話を共有することすら難しい状態で、モチベーションの持って行き場を失い、漠然とした不安を感じていました。
私は、この閉塞感の解決策がカンファレンスだと考えました。
周囲に危機感を持ってもらい、少しでも情報のキャッチアップを進めてもらうためには、技術カンファレンスのような相手を連れ出して行ける場が最適だと感じたのです。技術カンファレンスは、受動的に参加するだけでも他組織のエンジニアからノウハウを学べる場であり、私が感じていた閉塞感を突破するきっかけになると確信しました。
会社としても、もちろんこの状態を良しとしておらず、外部イベントへの積極的な参加を推奨するなど、開発組織として未来を見据えて先手を打つ動きがありました。当時は広報的な意味だけでなく、技術的知見を広げることが求められていました。(当時、私が上司に「登壇してしっかり宣伝してきますね!」と伝えたら「宣伝はいいからちゃんと学んできなさい」と嗜められたこともありました。)
組織の方針と自身が組織に求める環境が一致したため、組織のために周りで技術を高め合える場をつくるべく、外部イベントを通じて技術交流を活発にし、組織文化を醸成する取り組みに力を入れることにしました。
実現したい「周りを巻き込むコミュニティ」
前述した「閉塞感」を打破するためには、「周りを巻き込めるコミュニティ」を作る必要がありました。
以下の図は、PHPカンファレンス関西2024の閉会式でも取り上げた、私が理想とするコミュニティのイメージです。図が示すように、コミュニティで得た知識を業務に還元し、その成果によってさらに多くの人がコミュニティに集まる、という好循環を生み出す状態を実現できれば、身近な人々をこの輪に巻き込むことができるはずだと考えました。そのためには、私の職場がある関西で技術カンファレンスを開催し、それを継続可能な形で運営することが絶対条件だったのです。
PHPカンファレンス2020年
2020年 実行委員長になるまで
私が初めてカンファレンスへ参加した翌年から、会社としても技術カンファレンスへの登壇者を積極的に送り出すようになり、徐々にメンバもカンファレンスへの参加が奨励される雰囲気になっていきました。
しかし、2019年にはPHPカンファレンス関西が開催されませんでした。当時、開催されていたPHP関連のイベントはどれも関西から遠く離れた東京での開催が中心で、職場の人を気軽に誘える距離ではありませんでした。この状況は、私が望んでいた「身近な人々を巻き込む場」には程遠く、どうすれば良いのかと焦りを感じていました。
この状況を動かすきっかけとなったのが、私がこの頃から主催するようになった「Web×PHP TechCafe」(以下、PHPTechCafe)です。
PHP TechCafeは、私と数名の仲間で会社のオフィスを借りて月に一度オフラインで開催していたコミュニティイベントです。(後にオンライン形式へと移行しました。)しかし、コミュニティ運営は初めての経験だったため、どのように進めればよいのか手探りの状態でした。そこで、近隣で開催されているいくつかのイベントに参加し、他の運営者たちがどのようにイベントを運営しているのかを学びながら、試行錯誤を繰り返しました。
そんな中、同じように他のイベントに参加して運営ノウハウを探っていた先輩から、「ちょっと、オレこれ行こうと思うんだけど、一緒に行かへん?」と誘われたのが、PHPカンファレンス関西2020のキックオフミーティングでした。
(今振り返ると、この時に先輩が声をかけてくれなければ、私の人生は大きく違っていたでしょうね… 笑)
2019年11月18日。大阪天満宮駅で降り、少し雨の降る中、大きな通りを歩いて向かった会場には十数人ほどの参加者が集まっていました。会場では、主催者が運営者不足でこれまで開催ができなかったことや、その他の経緯について一通り説明を終えた後、こう切り出しました。
「では、委員長を決めましょう。誰かやってくれませんか?」
皆さんも経験したことがあるかもしれませんが、こういう状況では、まず誰も手を挙げません 笑。
とくに、その場にいた参加者のほとんどはカンファレンス運営の経験がなく、実行委員長が具体的に何をするのかはおろか、そもそもカンファレンス運営そのものがどのようなものかすら分かっていなかった人たちばかりだったはずです。
主催者の一人が「誰でもできるよ」「2、3ヶ月あればできるし」「難しくないよ」と声をかけて促しましたが、場には気まずい沈黙が続いていました。
そんな中、私は次の二つのことを考えていました。
一つ目は、ここで実行委員長になれば、自分が理想とするイベントを実現できるのではないかということです。
先に述べたように、私は組織のために周りの人を連れ出せるようなイベントを求めていました。実行委員長としてイベントの中心に立てば、その目標を形にできるのではないかと考えたのです。
二つ目は、自身が主催していた「PHPTechCafe」との兼ね合いです。
PHPTechCafeでは、大阪梅田を中心にPHPエンジニアが交流できる場を作ることを目指していました。そのため、PHPカンファレンス関西のような他のPHP系コミュニティと関わることで、コミュニティを成長させ、その文化を社内にも取り込むことができるのではないかと考えました。
考えているうちに、「誰もやらないのなら、ここで自分がやらないともったいないのではないか…」と感じ始めました。私は手を挙げ、PHPカンファレンス関西2020の実行委員長に就任しました。
(もっとも、実際はそれほどかっこいい話ではなく、「それじゃあ…誰もいないなら…」といった具合に、ゴチャゴチャと言いながら手を挙げたのを覚えています。今思えば、もっとサッと意思表明していれば格好良かったのですが 笑)
無謀だった2020年開催
結論から言うと、PHPカンファレンス関西2020は開催できませんでした。2020年5月の開催を目指して準備を進めていましたが、当時の新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により外出自粛が求められる状況下、開催を断念せざるを得なかったのです。
しかし、私は2020年に開催ができていたとしても、おそらく失敗していただろうと考えています。
まず、私自身が自分で組織を動かせず、動き出すタイミングをズルズルと遅らせてしまいました。
2019年に開催が叶わなかったことからも分かるように、前委員会からのサポートや引き継ぎはほとんど期待できない状態でした。資料を漁ってみても、整理されたログのようなものはなく、結局どこから手をつければいいのか分からないまま時間が過ぎていきました。実際には「カンファレンスの主催が初めてだから」という理由を心のどこかで言い訳にし、誰かに助けてもらえるのを期待していたのだと思います。これが、大きな失敗でした。
最終的に動き出したのは、2020年1月に実行委員会のメンバーの一人からTwitterのDMで「どうなってる?」と連絡をもらった時でした。「2、3ヶ月あればカンファレンスはできるよ」と聞いていたものの、蓋を開けてみれば決めるべきことが山積み…。
当時の私は、自分なりに「自分が先頭に立つ必要がある」と認識していたつもりでしたが、振り返ってみるとその意識は全く足りませんでした。「自分が動かなければ組織は動かない」ということを、もっと強く自覚すべきだったと痛感しています。
さらに、周囲の意見をすべて聞き入れてカンファレンスを作り上げようとしたことも良くありませんでした。全員が納得するカンファレンスを目指すあまり、自分のカラーを出せず、準備が滞る原因になってしまったのです。
当時の私は実行委員長という肩書きを持ちながらも、カンファレンス運営の経験値は他の実行委員会メンバーと大差ありませんでした。実行委員会メンバもそれぞれが何かしらやりたいことがあって参加してくださっていると考え、全員の意見を取り入れようと試みました。また、開催経験が全くなかったため、過去の事例や経緯に頼りすぎ、受け身の姿勢になっていたのも事実です。その結果、物事の決定が遅れ、準備はなかなか進みませんでした。
さらに問題だったのは、私が意見を汲み取ろうとするあまり態度を明確に示さなかったことです。そのせいで、ミーティングを開いても何か一つの決定を下すのに時間がかかり、ただでさえ動き出しが遅かったプロジェクトの進行はますます停滞していきました。(もっと正確に言うと、私が全体のタスク量を把握できていなかったので、どれだけ停滞しているのかすらわかっていませんでしたが…)
結局、3月末にCOVID-19の影響を理由として、2020年の開催を断念しました。しかし、正直なところ、とても正常に開催できる状態ではなかったと思います。仮にあのまま突き進んでいたとしても、間違いなく失敗していたでしょう。
コロナ禍から開催まで
コロナ禍での環境の変化
2020年の開催断念から2024年までの間に、私自身の環境は大きく変化しました。
まず、主催するPHPTechCafeが軌道に乗りました。オンライン開催へ移行したことで、遠隔地の著名なPHPer(PHPエンジニア)にも参加していただけるようになり、PHPやWeb関連の深い知識が集まる場となりました。その結果、コンテンツの充実度が飛躍的に向上しました。
さらに、私自身のイベント登壇も増えました。PHPカンファレンス関西を復活させた時のことを考え、会社の後押しを受けながら、いくつかのイベントで登壇を重ねる中で、PHPコミュニティ内での知り合いが増え、人脈が広がっていきました。
しかし、私の周囲での文化醸成という観点では、まだ課題が残っていました。PHPTechCafeは業務時間後に開催されるオンラインコンテンツであることがネックとなり、社外からの参加者は増加したものの、社内からの参加者はほとんど増えませんでした。また、外部イベントへ登壇するメンバは徐々に増えつつありましたが、それらのイベントの多くはオンライン形式か東京での開催が中心でした。そのため、身近な人々を巻き込むことが難しく、私が求めていた「周囲を誘い合わせて参加する」ような文化には程遠い状況でした。結果として、数年が経過しても閉塞感を完全には解消できておらず、やはり近場で一緒に参加できるオフラインイベントの必要性を強く感じていました。
再認識したカンファレンスの必要性
コロナ禍が落ち着き始めた2023年6月、PHPカンファレンス福岡がいち早く地方でのPHPカンファレンス再開を成功させました。(よく勘違いされますが、各地で行われているPHPカンファレンスは、それぞれ独立した別団体によって主催されています。)
このとき、私はコロナ明けの地方カンファレンスがどのようなものかを確認したくて、初めて福岡を訪れました。しかし、現地では、感染対策に配慮しながらも、地方で十分にカンファレンスを成立させられることだけでなく、オフラインでしか体感できない「現場の熱量」を肌で感じることができました。
PHPカンファレンス関西を復活させるならこのタイミングしかありませんでした。
実行委員会の発足
仲間集め
PHPカンファレンス福岡2023 でオフラインカンファレンスの魅力に気づいたのは私だけではありません。このイベントは PHPカンファレンス北海道2024、PHPカンファレンス小田原2024、PHPカンファレンス香川2024 の開催につながります。
ただし、これらのカンファレンスとPHPカンファレンス関西2024には、決定的な違いがありました。それは、開催を決めた時点で実行委員長以外に運営委員が一人もいなかったということです。関西のPHPコミュニティはPHPカンファレンス2018以降存在せず、地方カンファレンスに来る人も多くはありません。また、関西は東京から遠く離れているため、東京の方々に運営を手伝ってもらうのも現実的ではありません。私の委員長再始動最初の仕事は仲間を集めることでした。
まず、PHPカンファレンス福岡2023の懇親会会場で、PHPカンファレンス福岡の運営メンバーであるアカセさんに繋いでいただき、数名の方に声をかけました。また、2020年に使用していたSlackグループにもメッセージを送り、再び連絡を取る試みを行いました。
これにより私を含めコアメンバーを4人確保することができました。
当時、私のPHP関連の知り合いは東京に多く、関西での知り合いはほとんどいませんでした。声をかけられる限りの人に声をかけた後、あとはconnpassに説明会を公開して広く公募しました。
正直なところ、活動がほとんど途絶えていたこのイベントのスタッフに、誰が手を挙げてくれるのかはかなり不安でした。しかし、この説明会後になんと15人がコアスタッフになってくれました。私はよくても10人未満だろうと思っていたので、とてもとても安心しました。
その後も数名から連絡をいただき、最終的にPHPカンファレンス関西2024は、合計25人の実行委員会で動くことになりました。後に募集した当日スタッフも含めると、合計で47人という大所帯となります。
これは「関西」という立地に救われた部分が大きかったと思います。他の地方に比べてエンジニアの数が多い関西には、私と同じように関西でのカンファレンスの必要性を感じていた人がたくさんいたのでしょう。
また、関西以外から参加してくれたメンバーにも大きく助けられました。中には私を助けるためと言って参加してくださった方もおり、その言葉に感謝の気持ちでいっぱいです。
さて、仲間が集まり、いよいよ実行委員会でのカンファレンス準備が本格的に始まります。しかし、当然のことながら、人が集まっただけでスムーズに開催ができるわけではありません。この人数に見合うタスクを用意し、それを計画的に分担しながら準備を進めていく必要がありました。
次回はこの大所帯でどのように実行委員会を構築し、運営を進めていったのかについてお話しします。
>> 第2回:組織づくり
PHPカンファレンス関西は、2025年の開催に向けて、スタッフを募集中です。
詳細な説明は以下動画から!!
https://www.youtube.com/watch?v=qYW9tTvn3Hs
申し込みは、以下のフォームからお願いします!!
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSenjwQIDWyqQMfphURhR0cYNCtq1lWJHTiKPxVUB8w_1UX0ew/viewform