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なぜ大人の学びはうまくいかないのか?

■今さら基本なんてやってられない


20年近く前にある著者さんから聞いた話です。

大人の学び(たとえば英語など)がうまくいかない理由の大半は、基礎から積み上げないから。

「もう自分は一人前の大人で仕事もできる(そもそも学生の頃も勉強はそこそこできた)」という自信がかえって仇になる。

本来なら、自分が未知ないし詳しくないことを新たに習得するのであれば、まずは基本的なことの習得にある程度時間をかけるべきなのだが、先に挙げた自信(プライド)があるから、「いい大人が、今さらこんな簡単なことから始めるのはかったるい」となり、一気にレベルを上げて先に進もうとして、結局は途中でわからなくなって挫折してしまう。

この話を聞いて「確かにそうだ!」と思ったので、それ以降、自分がよくわからない分野の本を担当するときは、なるべく簡単な基礎の基礎から学ぶことにしています。

入門書の複数冊ざっくり読んで基本的な用語や、その分野の全体像をざっくりつかんでから、もう少し詳しいことに、と段階を踏んでいます。

最近は、ネット上のコンテンツが充実していて、テキストに限らず動画でも学べるようになっているので、自分にとって「わかりやすい説明」を見つけることで、効率的に学べます。
(個人的には、学習のマルチアングル化と呼んでいます)

■長年コンプレックスだった数弱を克服した体験


さて、この10年ほど、高校時代からずーーっと苦手だった数学をどうにかしたいと思い、少しずつ学習を続けています。

中学の最初のほうからやり直して、この2~3年でようやく数IIの基本的な内容くらいまではだいたいわかるようになりました。

すると、ありがたいことに、これまで読んでもよくわからなかった会計・ファイナンスの本(一般ビジネス書レベル)や、科学読み物などの内容が、本当にわかるようになっていました。

たとえば、会計・ファイナンスの本を読むとき、かつては「Σ」が出てきたら、「うっ!」とか思っていたのですが、今は「数列かあ」というレベルには達することができています。

「この記号や式はどういうことを表すのか?」という基本が理解できれば、別に受験するわけでもないので十分ですし、わかると面白くなりますし、さらに読書の幅も広がるので、今は数学を学ぶことがさらに楽しくなりました。

改めて思ったのは、中高生で勉強することは、理系・文系を問わず、本当に重要なのだなと。

個人的には、ずっと文系だった中高年の方は、いきなりDX、AI、ファイナンスなどの本を読もうとするのではなく、中学・高校の数学をきちんとやり直すほうがよほど仕事に役に立つし、将来の生き残りにつながるのではないかと思っています。

■わかっているけど、勉強するのはおっくう……


大人の学びが続きづらいもう1つ問題は、学びの習慣化でしょう。

これは、とにかくクセにすることに徹するしかしないのだと思います。
(習慣化、継続に関する本は、最近いろいろ出ているので、自分に合った方法を試すのがよいかと)

1日のうちに5分でも10分でもいいので、必ずやるようにする。

ただし、仕事が終わってからだと相当つらいので、個人的には朝早めに起きて家を出る前に、学びの時間を設けています。
(話はズレますが、ビジネス書の著者さんはたいてい本業をお持ちなので、朝、出勤前に執筆する方が多いです)

あるいは、基本的には1人で仕事をしているので、仕事に飽きたら、息抜きとして数分間勉強することもあります。

帰宅後は、時間と体力があれば、スタディサプリのような動画コンテンツを1~2本見るといったくらいです。

気合いではなく、「ゆるくやる」を継続する、なるべく体力・精神力を消耗しないように、1日の生活の中に組む込むようにすることをおすすめします。

■やらなきゃいけないのはわかってるんだけど、忙しいんだよね


もちろん、それはわかります。

そういう意味では、かなり必要に迫られないと、人間は新しいことを始めるのは難しいのかもしれません。
あるいは、よほど感動したとか、心を強くゆすぶらされる経験をするとか。

自分の場合は、仕事の必要上、いくら文系で数学が苦手だからといって、経済・会計・ファイナンスなどの本を担当する以上は、最低限の知識を持っていないと著者さんと内容の相談ができませんし、情報の成否を判断できませんし、そもそも読者の皆さまにも失礼です。

また、これまでのキャリアで、ずっと同じ分野を作っていられる状況になく、常に何か新しいことに挑戦する必要がありました。
たとえば、キャリアの初めはPC雑誌の編集部(それまでPCにさわったことはなかった!)、その後はビジネス書・実用書、ときには自己啓発書や政治経済の本など、30年ほどの間に、なんやかやでいろいろなジャンルの本を手がけています。

そのため、学びの習慣が身についたというよりは、身につけざるを得なかったのです。

とはいえ、学び続けることができたおかげ、世の中の見え方が変わり、解像度が上がり、視野も広がりました。
何かを学ぶとさらに、新しいことを学びたくなるという正の連鎖にもなっています。

私自身のささやかな成功体験ではありますが、「忙しい」人たち(特に中高年以降の男性)にも、学びの楽しさを体験していただきたいなあと思いつつ、本稿を書きました。
また、常にそんな気持ちで本を作っていたりします。


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