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[存在記録#4]:埒が明かない。それは誰の所為

 沼芥は飽きた。選別者は飽きた。終わらない世界、終わらない仕事。終わらない役目。飽き飽きだ。一体神は何を思って我らにこの役目を背負わせた?この仕事はなぜ終わらない?
 
 沼芥は止めていた思考を散り散りの意識をかき集めて、頭の中の嘆きを隅に追いやって考える。なぜこの世界は何処までも広がっているのだろう。そもそも終わりはあるのか。この世界、己の居る空からものが落ちてくるこの世界に果てはあるのか。どれだけ取り込んでも窮屈にならないこの場所は何なのだろう。
 __これいじょうはいけない。しこうをしてはいけない。ふみこんではいけない。かれらにきづいてはいけない。
 頭の中のしこうが散り散りになる。嘆きが、号哭が頭に響く。沼芥は再び思考を止めた。
 
 選別者は気付いていた。
 神など居ない。居ないが、代わりに観測している誰かが居る。この箱庭を楽しんでいる誰かが居る。でもそれを特定する事は出来ない。観測者をこちらから観測することはできない。では何が面白くて、観測なんてしているのだろう?人々の世界、パライバトルは変わりなく、私の世界も変わらず、混沌の世界も変わらない。何も面白くない。変化の訪れない世界。ああ疲れた。疲れてしまった。選別者は瞳を閉じた。
 ぴちゃ__。足元を濡らす液体に違和感を抱き瞳を開ける。そこは灰色の世界。己が芥を叩き落してきた世界。沼芥が、選別者が互いを認識したとき。群がるように液体が嵩を増す。
「ゆるさない、許さない!!」
「私を捨てたお前を!」
「慈悲のないおまえを!!」
「お前も此処に来い!!」
「どうせ誰にも愛されぬ異形の異物が!!」
「殺してやる!殺してやる!!」
「ぐちゃぐちゃに引き裂いてやる!」
 頭に響く声。声と同時にまとわりついて飲み込もうとする沼芥。選別者は気付いた。観測者に不要と判断されてしまったのだろう、と。ならば最後にその姿を見てやりたいと空に目を向けるもそこには灰色があるだけだ。
 やがて、液体は選別者を飲み込んだ。

 液体の中選別者はもう個として存在していなかった。バラバラに散って、沼芥の中で溶け合うことなく隅へ、隅へ追いやられた。存在が飲み込まれたぐちゃぐちゃの選別者に一つの欠片が漂い近付いた。もう真面に思考が回らない中ありもしない手を選別者は伸ばした。大切に大切に包み込もうとする。欠片もゆらゆらと近付いてやがてそれら欠片は混ざり合った。
 その時何かが満たされた感覚を覚えた選別者だったが、同時にそれは選別者が消滅するきっかけとなった。

 __相変わらずに眩しい存在だ。
 __かわらなく、きれいだね。