6.楽器に触れる~技術課題への応用~
前回のレッスンで、ある程度要点は伝わったのではないかと思いますが、もう少しやってみましょう。
その1 楽器を味わう
いつもやっているように楽器に触れます。ピアノなら指を鍵盤にふれ、弦楽器なら弦に触れたまま、音は出さずに身体をリラックスさせてそのまま目を閉じます。
目を閉じたまま様々なポイントに意識を傾けていきます。腰、お腹、肩、脇、肘、手首、指一本一本、それから楽器…鍵盤、弦。
しばらくその感触を味わいましょう。
これだけです。拍子抜けしたでしょうか?
私にとって、例えば繊細なアルペジオを楽しむには、指一本一本の指先で弦を感じる必要があるのです。だからここにその基本があります。
私はギターを弾いていますので、私の左手が構えて弦を押さえる感覚、右手がギターを抱えて弦の上に指先を当てる感覚、それらすべてが味わいなのです。
その2 技術課題への応用
次は技術課題への応用です。
難しいと感じているコードフォームを一つ選び、それを押さえてみる。
そのまま目を閉じて、身体の声に耳を傾ける。指先、手首、肘、肩、脇、どこかが悲鳴をあげていれば、そこに注意を傾ける。ただ長時間無理を強いると故障する恐れがあるので、その場合は無理をせずに短時間で切り上げる。
問題の部位がある程度特定できたら、そこに意識を集中させて再度そのフォームを押さえて、その部位を心の目で観察する。
もしここで解決方法が見つかって修正できれば、「やった!うまくいった!」と自分に言って、うまくいった状態でその練習を切り上げる。モヤモヤした感覚を残したままだと、いつかそのモヤモヤが頭をもたげかねない。そこでスパッと練習を切り上げると、それを断つ効果がある。
解決方法が見つからなければ一旦それで切り上げて、しばらくの間放置し、数日かかっても良いと気長に構え、解決策がひらめくのを待つ。実はもうすでに問題の箇所に対する意識は活性化しているので、自然に解決に向かっていることさえある。
私の場合、難しいと感じていたコードフォームについて、はじめ指の問題と考えていたのに、脇に力が入っていることが根本的な原因だと気づいたことがありました。その時点でほぼその問題は解消しました。
もちろんその時私が身体に与えた指示は「脇に力を入れない!」ではなく「脇を緩める」でした。それによって手首・指への負担も軽減されたのでした。
その結果「やった!私の脇は自由になった!」という感覚を得ました。
もう一つ例をあげます。
ある曲で左手のポジション移動が難しいと感じたことがあって、最初、原因は肩かな?と考えました。肩の関節は肩甲骨にあります。問題はその肩甲骨の動きに関係していると気づきました。最終的には、肩甲骨と鎖骨、鎖骨と胸骨の間の関節に意識を向けることで、鎖骨から肩、肩から腕全体に至る動きがゆったりとスムーズになり、問題が解決したのでした。
3.内的感覚の開発に意識を用いる
今回の記事については、この本を少し参考にしました。
「音楽家ならだれでも知っておきたい『からだ』のこと」という本は、殆どイラストによって図解されているので、体のしくみを感覚的に理解できるのが良いのでお勧めです。技術的な問題を考える時に、体のしくみへの理解は大きな助けとなります。
もちろんそれを単なる知識として理解するだけでは充分ではありません。それを地図として、私たちの身体に意識を向け、内的な身体感覚を発達させることで、大きな収穫を得ることになります。
では目を閉じて、内側から私たちの身体隅々まで意識を傾け、身体を感じる経験を楽しみましょう。
鏡を見て演奏フォームをチェックすることがあるかもしれません。しかし鏡はあくまで補助なので、ずっと鏡を見てチェックし続けるわけにはいきません。必ず内的感覚でフォームや動きを捉える必要があります。
ここで発達するのは主に次の二つです。
身体をコントロールする内的感覚の発達
意識を自覚的に用いる能力の発達
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