ハイブリッド特急と高山線
最初で最後のおはようエクスプレスに乗った後、少し考えた。「城端線行こうか、高山線行こうか」。検索をかけてみると高山線の方に、ちょうどいい時間の特急を見つけた。すぐさまきっぷを予約し、発券、富山へ向かう。
富山へ
富山で降り、数分で乗り換える。
ハイブリッド特急
そこにいたのはJR東海のHC85系。形式は「Hybrid Car」からとられたもので、リチウムイオンバッテリーとディーゼルでモーターを動かすハイブリッド車両だ。東海では初めて、西日本エリアではクルーズトレイン「トワイライトエクスプレス瑞風」に続き2例目となる。
京都鉄道博物館での出張展示は見たが、乗るのは初めて。ハイブリッドの列車も2007年ごろに長野県の小海線で乗った以来17年ぶりだ。
電車?
車両番号の頭には「クモハ」「モハ」。この文字があるのは電車扱いになっている。ハイブリッド車両はディーゼル車扱いとされ、電車とは運転免許が別。しかし、JR東海では電車の運転免許とエンジン系統の講習を受けることで「HC」の運転が可能になる。ちなみに電車とディーゼル車の免許を同時に持つことはできない。
国土交通省の通達によって、かねてからハイブリッド車両を保有するJR東日本でもモーター搭載のディーゼル車を含めて同様の措置がなされている。人手不足やメンテナンス簡略化の切り札と言える。
ディスプレイでわかるハイブリッド
車両のディスプレイにはディーゼル、バッテリー、モーターの動きをリアルタイムに表示。クルマでもあったりするが、それだけ先進的な乗り物と言える。
惰性走行でアイドリングが止まるのは今まで通り。ただ、この車両は開扉時にもアイドリングストップができる。停車時はバッテリーが灯りなどの電力を供給する。
バッテリーが動いているときは特に電車の感覚が強い。ディーゼルと同時に「キュイーーン」という電車的な音も聴こえる。「HC」一番の象徴であり、こういうところは他のローカル線ではまず聴けない。
車内
座席は「N700A」と同じものを使っている。色は違うが、座席の形状やテーブルの素材はまさに新幹線。
2冠
デッキには「鉄道友の会ブルーリボン賞」。年度ごとに一番優れたデザインや技術を取り入れた新型車両に贈られる「最高金賞」だ。
もう一つ、「日本鉄道大賞2022」も贈られた。鉄道車両にとどまらず、サービス、作品、テレビ番組など表彰対象が幅広い。選考には交通や機械学に精通した有識者、プロの写真家、「女子鉄アナウンサー」こと久野知美さんなどが携わっている。HC85系は環境面や乗り心地面を向上させたことが決め手となった。
アルプスの牧場とともに
富山を出発。直後の車内チャイムには国鉄のディーゼル列車で親しまれてきた「アルプスの牧場」という曲が用いられる。
アレンジはクラシック系音楽デュオ「スギテツ」の2人。特にピアノ担当杉浦哲郎さんは根っからの鉄オタで名古屋出身である。ピアノが印象的なメロディは鉄オタ以前に聴き心地がいい。
ブルーに染まらない
富山県内はJR西日本のエリア内。ただ、車両は「東海」、それ仕様のアナウンスが用いられたり、ディスプレイに岐阜県内の東海道線の遅延をお知らせしてくれたりしてる。ブルーに染まらない強い意志を感じるような。
山奥へ
富山の山奥へ入っていくと、雪が見えてくる。このあと猪谷駅で土産物屋さんのお姉さんとしゃべっていると普段はもっと積もるそう。言われてみればこれは湖北の序の口程度。いかにこの冬が暖冬だったかわかる。
猪谷駅
猪谷駅で下車。富山県最後の駅、かつJR西日本エリアの端っこに当たる。
この駅から南側が東海のエリアになり、岐阜県飛騨市へ入っていく。西日本→東海に乗務員は交代し、高山、名古屋へと去っていった。
猪谷は「越中国」と「飛騨国」の関所があったチェックポイント。これが鉄道に変わっても受け継がれている。その歴史を学びたかったが、あいにく定休日だった。
懐かしの神岡線
そんなわけで、駅前の土産屋さんへ。おせんべいが気になったが、それ以上に鉄道魂がすごく刺激され、店のお姉様と非常に盛り上がった。
そのきっかけがこの列車。猪谷から分岐していた「神岡鉄道」というローカル線の「おくひだ号」だ。
神岡鉱山への鉄道として開通し、貨物輸送で栄えてきた。しかし、利用が少ないところに、貨物輸送の廃止が追い打ちをかけたことで2006年に廃止された。僕は幼い頃に図鑑で見たことや雑誌でこの話題を見ていたことでよく知っていた。廃線から10数年経つが、「おくひだ号」のビジュアルは他の鉄道にないオリジナルで覚えやすかった。
ちなみに廃線跡の一部は残された上で、「自転車トロッコ」で走破できるようになっている。お姉様曰くクルマで20分。遠いなぁ…
戻りの普通列車
談笑していたら戻りの普通列車がやってきた。
キハ120形
車両はキハ120形。関西線や中国地方でよく見られる「レールバス」のような軽量車両。扉がバスっぽく、車体長も短い。
カラーは前後で色違いになっている他、海側と山側で塗り分けが異なっている。
あいの風とやま鉄道でも、側面が海と山で異なるようになっている。たぶん、ここからインスパイアされたのだろうが、海も山もどちらも絶景な富山らしいカラーリングで、高山線でしか見られない。
列車は2両無いとキツそうな乗車率。高山からの外国人が多かったり、越中八尾からも人出が多い。
山を降りると晴れてきた。
速星駅
速星駅には貨物列車の姿。「日産化学」の工場があり、専用線ではちっちゃな入れ替え機関車がせっせと働く。
婦中鵜坂駅
婦中鵜坂駅は高山線で一番新しい駅。元は富山市の社会実験として設置された期間限定の臨時駅。利用が見込み通りあったことで、常設駅に格上げされ、市民を支えている。
50分ぐらいで富山駅に到着。JR西日本としては飛地の在来線だが、個性の濃ゆい路線だった。いつかは飛騨高山や下呂温泉も行ってみたい。