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落とし物拾いは簡単でない

JR西日本が新型の缶キャッチャー(マジックハンド)を導入した。これまでの掴むタイプに加えて、AirPodsを始めとするワイヤレスイヤホンを取るための磁石タイプ、液晶画面に配慮した吸盤型が追加され、交換して使うことができる。すでにJR東日本でも同じ物が導入されているのとほぼ同じだ。インタビューに答えた係員曰く「3分から5分かかってたのが、30秒で取れる」と話した。言葉通り、あれほど小さい物でもそれくらい格段に早く取れるようにはなる。ただそれでも、落とし物を取るのは簡単ではないことを駅員バイトで経験している僕から申し上げたい。

取るだけで手間

駅員バイトをしていた頃は、靴、スマホ、傘など落とし物を拾って欲しいと僕に申告されることが多かった。一見落とし物を取るだけだが、実はかなり手間がかかる。
あらかじめ、運転指令にその旨を申告し許可を取り、列車を入れないように準備、安全確保ができると、確認して拾っていく。このため、僕は「15分ほどお時間頂きます。」とお断りを入れている。こんなに時間を掛けるのは、過去に落とし物を拾おうとしたら列車に接触し、命を落とすという事例があったためだ。だからこそ、安全のためこんな風に手順を踏んでいる。また、缶キャッチャーを使うには講習が必要でバイトの僕はやっておく必要が無かったため、やることは不可能。大方できる社員さんに頼まなくてはならない。

実は危険行為

中には急いでいるイライラから「早く取ってよ!!!」「もういい!自分で取りにいく!!」と感情を爆発させるお客様も過去に見たことがある。ただ、「どうぞ」と言ってそんな危険な目に遭わせるわけにはいかず、このときはなんとか、社員さんがなだめてほとぼりは冷めた。はっきり言って身投げするようなものだから。
また、僕自身はホームから身を乗り出して落とし物の場所を示そうとしたところ、係長(助役)に慌てて止められ、後で「やって来る電車はギロチンみたいなもの。だから身を乗り出さないでほしい。」と例えを交えて注意され、どれほど恐ろしいことをしていたか危険性を認識できた。以後このようなことは一切しなくなった。

短縮できても。

先程のを改めてまとめると

申告

社員が缶キャッチャーを準備し、ヘルメットと反射材チョッキを着用し、ホームへ。

業務用携帯で指令に連絡

ホームに列車が入らないよう信号を設定する。

安全確認しながら、拾う。

までいろいろやるべきことが多い。
「たかが落とし物取るだけでしょ」と思われがちだが、実は命を落としかねない行為であることを分かって頂きたい。だから、手間を掛けるし、社員さんは厳重装備でやっている。詳しくない人だとまさか時間掛かるなんて思わないし、仕事や学校、約束に遅れそうで不安だし、時間が無かったりして焦る気持ちは分かる。ただ、もし列車がギリギリまで来てると、命を落とすかもしれないし、列車を止めて安全確認し、遅れて迷惑がかかる可能性も。落とし物であっても、線路内に許可なく入ることは決してしないように、プロである駅員に任せてほしい。
元駅員バイトからのお願いでした。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。