なぜTwitchは、今でも競合より圧倒的に成長しているのか?
皆さんこんにちは。YJキャピタルの山下(@JP_YJC)です。
今回は米国のライブ配信プラットフォームのTwitchに関するポストです。
コロナ期間でTwitchが伸びたというデータが先日公開されました。他のYoutube Liveなどと比較してもTwitchは他プラットフォームを寄せ付けない圧倒的な視聴時間とチャンネル数の伸びを見せていました。
今日は、なぜTwitchが一人勝ちしたのか、Twitchの当初の成功要因とともに考察してきたいと思います。
Twitchとは?
Twitchとはゲームを中心カテゴリとした米国NO.1のライブ配信プラットフォームです。Ninjaといった有名ゲーム配信者を数多く輩出していますが、近年は後追いのゲーム配信プラットフォームによる引き抜きなどが横行し、2019年には伸びが一時期低迷していました。
Twitchの軌跡
Twitchは今や誰もが知るライブ配信プラットフォームで、巨大なゲーム実況市場そのものを作ったプレイヤーとも言えます。
ライブ配信黎明期である2011年ごろ、Twitchの前身のjastin.tvで様々なジャンルのライブ配信をしたところ、視聴者数もユーザー配信数も圧倒的にゲームが伸びていたことから、ゲーム配信者を増やす施策をスタートしたことから、ゲーム実況市場は拡大していきました。
ゲームがライブ配信に優れていた点は、ルールを覚えれば誰でも気軽にプレイでき、コンシュマーゲームなら1タイトル数百億という規模の金額を使ってゲームスタジオが作った「優良コンテンツ」にあたるため、誰もが楽しめ、配信もできるコンテンツである点でした。
そのため、ゲーム実況は配信におけるユーザーハードルが低く、視聴者から配信者へ転換しやすいのが特徴です。
Twitchは配信者への配信再生回数に応じたインセンティブプランなどの収益性を高めることで、配信者数を一気に増やしました。配信者としても、再生回数が伸びればTwitchからの実入りが増えるわけなので、SNSなどで勝手に集客してくれます。
すると、芋づる式に配信者が視聴者を増やし、その視聴者の中から「ゲーム配信なら私でもできるかも!」という配信者予備軍を連れてきて、配信者への転換を促し、、という好循環を産んだのでした。
広告収益を上げるメディアという観点からみても、ゲームファンは元来多いため、視聴者の母数がとても多く、ユーザー母数の多いターゲットに対して、顧客獲得コストはほぼ0でゲーム配信者が勝手にユーザーを集め、広告収益が発生するというとても収益性の高いビジネスモデルに仕上がっています。
Twitchはそうしたニッチな市場で勝ち戦をしていましたが、コロナ前後からコアジャンルではなく、ただ配信者がユーザーと会話するだけの「雑談配信者(Just Chatting)」が増え、プラットフォームとして大きな転換点を迎えようとしており、最大の成長要因ともなっています。
TwitchのQonQの成長率は4%ほどでしたが、Twitch内の雑談配信カテゴリに至ってはQonQ15%という他ゲームタイトルの追随を許さない圧倒的な伸びを見せています。
Twitchは元来、オンラインゲームを中心としたコアゲーマーが集まっており、ゲームコンテンツに依存しない雑談配信は、ゲームを見に来たユーザーに好まれないと敬遠される傾向にありました。
そんな中でなぜ雑談配信が伸びたことで急拡大に繋がったのか、今回は理由を二つ、考察してみました。
ライブ配信市場の拡大と、技術的優位性
Twitchを創業した2011年当初のライブ配信市場は、まだ大きなプラットフォームもなく小さな市場でしたが、今やご存じの通りYoutubeやInstagramのような大型プラットフォーマーの参入によって、ライブ配信の市場規模は一気に拡大しました。
当然、他のプラットフォームでの配信が増えればゲームのようなニッチコンテンツ以外にも、音楽アーティストやタレントといったマス向け配信者も増加し、他ジャンルの視聴者層もライブ配信を見るようになるので、昔よりもライブ配信視聴者の母集団は拡大しました。
Twitchは、先行者優位と豊富な手元資金による機能開発/拡充が進んでいるプラットフォームなので、低遅延配信技術やUI/UXは他プラットフォームと比べ優位性が存在しています。
実際にライブ配信をしたことがある方は分かるかと思いますが、ライブの映像とテキストのコメントでは、テキストの方が素早く配信画面上に反映されるケースが多く、ユーザーコメントに対して配信者が即座に反応するのは意外と難易度が高かったりします。
こうした理由で、ゲーム外ジャンルの新規配信者が円滑にライブ配信する選択肢としてTwitchを選んだり、他プラットフォームからTwitchにスイッチ()した結果、雑談ジャンルは伸びているものと思われます。
コンテンツからコミュニケーションの時代に移っている
Twitchが市場を築いた時代から大きく変わったことがもう一つあります。それは、SNSや動画配信サイトでファン醸造を行い、ファンの熱量からマネタイズするインフルエンサーの存在です。
インフルエンサービジネスが台頭し、広告収益やD2Cが台頭してきている現在、最も重要なことは何かというと、ファンとの親密なコミュニケーションを行い「配信者との親密感」を作る場だと考えています。インフルエンサーには一方向的なコミュニケーションよりも親近感を覚えやすい双方向コミュニケーションかつ、情報収集に忙しいユーザーに対して、短時間で情報密度の高いコンテンツ提供が必要とされています。
既存ファンのロイヤリティを高めるため、エモーショナルかつ情報量多くコミュニケーションを行うとなると、(クリエイターによって得意な手段は異なるとは思いますが)一般的にはライブ配信>動画>音声,画像>テキストの順番で情報密度は高くなり、ライブ配信プラットフォームには他のフォーマットと比較して優位性があります。
実際に中国を中心としてインフルエンサー(中国風に言うとKOL)が自分のファンにライブ配信で商品を紹介するライブコマースは市場規模が6.4兆円に及ぶまで急成長(※画像グラフ)しています。
中国で盛んなライブコマースの根底にあるのは、「信頼した人(KOL)が紹介した商品も信頼がおけるので、買いたい」というユーザー心理です(特に中国では口コミ文化が根強く、その傾向が顕著だそうです)。このように、インフルエンサーにはコンテンツありきでなく、ライブ配信でファンと密なコミュニケーションを取って「配信者との親密感」を基にした、新しい収益源がうまれてきています。
ゲームの「コンテンツ主体」で成長してきたTwitchにも「配信者との親密感」を武器とした配信者が徐々に増えてきており、それが雑談配信者の増加に繋がっています。
例えば、TwitchではReckfulという配信者が食べ物を食べるだけの配信で、ユーザーとコミュニケーションを取り、投げ銭だけで200万円/月の収益を稼ぎだしていた、という例も存在しています。
彼は、「明日どんな配信すればいいか?」という配信のお題までユーザーに求めたりと、密なコミュニケーションを行い
ファンからの圧倒的な支持を集め、ここまでの収益を集めることに成功しており、まさにうってつけな例と言えるでしょう。
ここで面白いのは、こうしたコミュニケーションに強いライブ配信PFが伸びているのは米国だけでないという点です。
日本では、SHOWROOMや17Liveといったライブ配信プラットフォーマーが存在しているが、一時期ユーザー離脱の激しかったニコニコ生放送が近年、奇跡の大復活を遂げています。
ニコニコ生放送はは皆さん知っての通り、コメントが「弾幕」形式で流れるライブ配信サービスで、配信者やユーザー間のコミュニティの空気感をより感じやすいUI/UXになっています。
Twitchが依然として主戦場にしているゲーム配信の領域では、国内だとどうかというと、スマホゲームのライブ配信サービスであるMirrativがトップシェアを誇っています(YJキャピタルからも、ご支援させていただいています)。競合と比較して圧倒的なユーザー数もさることながら、アクティブユーザーの20%が配信者であるという衝撃的な配信者比率が特徴です。
Twitchの成功サイクルのポイントに「投稿者への転換」がありましたが、Mirrativはスマホゲームが数タップで簡単に行えることから、配信者比率が高く、ユーザー間でお互いの配信を見に行ってコメントしあう、といったSNS的な新しいコミュニケーションが生まれています。これは「双方向的なコミュニケーションがプラットフォーム拡大に直結する」ことをまさに物語っていると言えるでしょう。
また、中国版ニコニコ動画としての地位を確立した、中国の動画サイトBilibiliも、ライブ配信による投げ銭収益で、前Qに急速な成長を遂げました(グラフ緑部分が投げ銭収益)。
インフルエンサーが「配信者との親密感」を作るためにTwitchを配信プラットフォームとして選んでいるのは、収益化のハードルが低い点なども一因だと思うが、配信者視点から考えるとコミュニケーション機能が充実している点が挙げられると思います。
Twitchは外部ベンダーの配信拡張機能が充実しており、よりコミュニケーションしやすいUI/UX提供が行われています。例えばコメントをニコニコ動画風に流したり、SNSでの反応が配信画面に反映されたりといった機能を追加することが可能で、コミュニケーションを重視した配信にもってこいなわけです。
最後に
上記二点のように、市場拡大によるユーザー層の変化や、コミュニケーションが重視される時代に適切なUI/UXが提供できている点がTwitchが急成長を遂げた理由になっていたのでした。
感想や、他にも「こんな理由が考えられる」といった考察があればぜひ知りたいので、リプやDMなどいただけると大変ありがたいです!
Twitter(@JP_YJC)でライブ配信プラットフォームなど、メディア領域全般の情報発信もしているので、気になる方はぜひフォローください。
長文お付き合いいただき、ありがとうございました!
出展
https://www.twitch.tv/p/ja-jp/extensions/