イリプチコを恵んでもらった話
これは、私が去年、例の仕事でひいひい言っていた頃に遡ったお話。
私が日本語の個人レッスンをしている生徒が、アメリカ留学中の息子さんに会いに、このコロナの中アメリカに旅立ちました。
アメリカに発つ前、彼女は「先生、アメリカに着いて、ちょっと落ち着いたら向こうから日本語のレッスンを受けますので、また連絡します。」
そう言って、一ヶ月の予定で飛び立った彼女。
私は薄々予想していたのですが、案の定、彼女からは香港に戻ってくると聞いていた予定日を過ぎても何の連絡もありません。
驚いた事に彼女は、アメリカ留学している息子に、たまに会いにいく為に、わざわざアメリカで自分用のアパートを一つ借りっぱなしにしている事を聴いていたので、普通に予定は長引くだろうと思っていました。
そんなセレブ~な彼女は、この彼女です↓↓
(あ~、多分息子の事が放って置けなくて一ヶ月の予定が長引いてるかな~?もしかしたら半年くらいは帰ってこないかもな・・・)
と思っていたところ、戻ってくる予定から更に一ヶ月近く経った頃、「センセイ!私は今香港空港に着いたところです!!」と、興奮した感じのメールが届きました。
(・・・やっぱりな・・・。)
「センセイ、どうしますか?いつから日本語レッスン再開できます?前と同じ曜日でいいですか。」
どうやら、これから始まる21日間の隔離生活の苦痛を紛らわしたくて、早く日本語レッスンを再開したい模様。
「でもセンセ~、私、アメリカに行ってた間は、日本語、全く手つかずだったので、そこんトコ、よろしくお願いしま~す」
私「・・・(;^_^A 」
この21日間の隔離生活がかなり徹底したものだと言う事は、過去記事でも紹介しましたが、日本に一時帰国した知り合いが、この21日間の隔離生活、完全にホテルの部屋から一歩も出られない、窓も開けてはいけない生活を終えて、そのまま病院に入ったとか、メンタルをやられたとか、色々な話を聞くにつけ、何より退屈が嫌いで、常に自分の予定を目一杯パンパンに詰め込んでいる彼女を知っているだけに、この21日間を彼女は乗り切る事ができるんだろうか・・少なからず心配をしておりました。
そして早速翌週から日本語レッスン再開。
「Hi,センセ―!!オハヨーッ!!」(何度教えても「ございます」をつけてくれない(;^_^A )
いつも通り超ハイテンションな彼女は、挨拶もそこそこに、自分が21日間過ごすホテルの部屋案内を始めました。
(ちなみにヘッダーの写真は、彼女のホテルから見える景色。絶好のシービュー)
そのホテルのスイートルームは、私が今住んでいる家の普通に倍くらいある、リゾートホテルのトレーニングルーム並みに広く快適そうな部屋でした。
自宅でもお手伝いさんを3人雇っている彼女は、ホテルの部屋に色々な備品を事前に配送、設置して、自分の日常ルーティンをそこで送っていました。
ゴージャスなリビング、広いベッドルーム、とカメラは進み、自転車が見えたような気がしました。
「アレ?自転車???」
私が言うと
「Yes, Σ´〇׶Θ△★」
何やら、訳の分からない英語を言われました。
「は?イリプ・・?」
「elliptical(イリプティコー)」
日本的にはエアウォーカーと言ったらピンと来ますかね。
そう、あの空中で膝への負担を軽く歩ける機械です。
でも、彼女が使っているのは機械の後方がelliptical、つまり楕円形になっているトレーニングマシンでした。
「えっ!それも家からわざわざ運んだの?!」
一般庶民は言うまでもなく、そんな事前にホテルを自宅化するほど物を持ち込んだりしませんから、この21日間を健全に乗り切る為の、彼女の並々ならぬ意気込みと、その財力に改めて驚かされました。
「いいえ、自宅にあるのは大き過ぎて、この部屋には入らなかったのでココ用に買いました。」
と言うのです。
えっ・・・!!
この21日間の為だけに、わざわざ・・・!?
「センセ―要ります?私は自宅に既にイリプティコーがありますんで、ココ出る時に、コレ何とかしないといけないんですけど、友達に聞いたら皆、家にそんなスペースないって言われちゃって。」
既に親しい友人には当たった様子でした。
いやホントか~。彼女の友達も結構皆セレブなんですけど。スペースがない、と言うよりは、皆それぞれ持ってるんでしょうね・・。
「え?・・・じゃあ一応後からサイズ教えて」
そして、彼女は自分の朝ごはんを映して見せてくれると、おもむろに私の目の前でご飯を食べ始めます。
(いやいや、今から授業なんだけど・・・。)
ホテルでご飯を頼むのも、種類が少ない、マズイ、色々と聞いていましたが、彼女が食べているのは、どう見てもスイートルームによくあるルームサービス的な、イメージ、飛行機のファーストクラスで出て来そうな、ゴージャスフルーツ盛、新鮮野菜のサラダ、クロワッサン、トースト、オムレツ、ホットコーヒーでした。
庶民がたまの旅行に行ったら、ホテルが朝食バイキングで、はしゃぎ過ぎて欲張っちゃったみたいな量の朝ごはんでした。
「ここのホテルはサービスも良くて、人も良くて最高です!」
と彼女は言い、三食このクオリティーなのかと聞くと、
「ああ。私、朝だけは時間的に早いのでホテルのものを頼みますけど、それ以外は全部お手伝いが私の食べたいものを差し入れてくれますから」と。
もちろん、いくらゴージャススイートとは言え、21日間一歩も部屋の外に出られない事実は、心に重くのしかかる、これは間違いないでしょうが、彼女の隔離生活は、まるでリゾート地でバケーションを過ごしているかのような、優雅なものに見えました。
少なくとも、他の隔離生活をしている人たちとは一線を画しているのは確かでしょう。
レッスン後、彼女はすぐにマシンのサイズを送ってくれました。
旦那Kにそう言うと、特別広いわけではないけれど、スペースそのものはないわけではない我が家(色々と詰めればスペースは空けられるけど、その分一層手狭になるという感じ)に、本来は「うん」と言うはずのないKが、エアウォーカーという機種と「貰えるらしい」事に心動かされたらしく、
「よし!このソファを捨てよう!」
L字型のソファの、普段ほとんど使わない縦置きの方を指さして即決しました。
割とせっかちな彼女からも
「どうですか?」
「サイズは大丈夫ですか?」
とその日のうちにじゃんじゃんとメッセージが送られてきます。
「・・・じゃあ、良かったら私買うわ。そのイプクリ・・??」
「elliptical(イリプティコー)」
素晴らしい発音で、何故か全然音の配列が記憶できない私の間違いを正すと
「いいえいいえ!大丈夫です。これは本当にいいマシーンですから、このまま捨てるというのは余りに勿体ないので、誰かに貰ってもらえるなら、しかもセンセ―に貰ってもらえるなら、こんな嬉しい事はありません。」
「え・・じゃあせめて運送は私達自分でやるから」と言うと、
「ここは隔離ホテルなので、外部からの車両や人は中に入れません。こちらで全て手配いたします。」
・・・そして、そんなこんなの至れり尽くせりでやってきた
何故か、私の頭の中では「イプクリ・・」という音順で出て来てどうしても正しい名前が記憶できなかったので、覚えやすく「イリプチコ」と日本語読みの名前をつけて、やっと覚えました。
サイズは確かに、彼女から聞いていた通り、1m50センチほどのコンパクトな長さなのですが、私より背が高い・・!
きっとホントにジムとかに置いてある系のマシーンっぽいです。
数か月経った今も、こんなお高いものを太っ腹にくれた彼女からは、毎回授業の度に
「アナタはエクササイズしていますか?」
という質問から始まって、
「体重は落ちましたか?」
と細かくチェックされている私です。
彼女曰く「私はイリプチコの人間ですから。とにかくイリプチコさえやって置けば絶対大丈夫なんで」
という代物らしいので、このセレブのお慈悲で恵んでもらったイリプチコ、私のデブライフにも恵みの雨を降らしてくれるんだろうか・・・、期待をかけて頑張っています。