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間質性肺炎(12) 検査結果の食い違い〜混乱する患者さん

1. 問診や血液検査からは過敏性肺炎が疑わしい

蜂谷:こんにちは。

Dr.Y:蜂谷さん。こんにちは。前回から1週間経ちましたね。

蜂谷:前回、間質性肺炎と言われて、原因検索のために色々細かく診察してもらいました。

Dr.Y:身体診察では膠原病を中心に手がかりを探したのですが、見つかりませんでしたね。ただ、生活環境中に過敏性肺炎を起こしやすいアレルゲンがあったのが気になりました。

蜂谷:確かカビと鳥でしたね、自宅の湿気と羽毛製品の使用がひっかかると言われました。あれから、家の掃除をちょっと徹底的にしてしまいました。

Dr.Y:本当にそれらが関与しているかはまだ分かりませんが。でも原因が何であれ、生活環境をきれいにすることは大事ですからね。さて、今日は先日の血液検査の結果が出ていますよ。

蜂谷:どうでしたか?

Dr.Y:膠原病の検査はどれも陰性でした。一方、「鳥IgG(セキセイインコ)」という項目が陽性になっていますね。

蜂谷:「鳥」とか「セキセイインコ」という名前が入っているので、やはり羽毛製品に関するものですか?

Dr.Y:はい。これは正式名称は鳥特異的IgGというもので、蜂谷さんの血液中において鳥由来の蛋白に対する免疫反応が検出されたという事を示しています。鳥関連の過敏性肺炎を疑う所見と言えます。

蜂谷:つまり、間質性肺炎の原因は過敏性肺炎ということですか?

Dr.Y:いえ。現時点で過敏性肺炎の可能性が他の原因よりも高いとは言えますが、まだ決定打にはならないのです。

蜂谷:どうしてですか?

Dr.Y:一般的に鳥特異的IgGが陽性の場合に鳥関連の過敏性肺炎である可能性が高いとされていますし、それを裏付ける論文も出ています(1)。しかし実際の臨床現場では他の病気の方でもこの抗体が陽性になる場合があるんです。

蜂谷:なるほど。いずれにしても、この結果だけで確定はできないということですね。

2. CT画像は、むしろ特発性肺線維症(IPF)に近い

蜂谷:一方で、前回CTも撮りましたがどうだったんでしたっけ。CT画像も過敏性肺炎っぽいんでしょうか?

Dr.Y:ところが実は、蜂谷さんのCT画像を見てみると、過敏性肺炎ではなく特発性肺線維症(IPF)に近い特徴が見られているのです。先日、当院放射線科の読影医の先生とも議論になりました。

蜂谷:問診と血液検査では過敏性肺炎を疑う所見があるのに、CTによる画像検査の結果は過敏性肺炎よりもIPFを疑うという事ですか?

Dr.Y:その通りです。

蜂谷:そんなことってあるんですか?どうしてそんな事が起きるんでしょう?

Dr.Y:過敏性肺炎以外の疾患でもたまたま鳥特異的IgGが陽性になってしまう事があるのと同様に、IPF以外の疾患でも進行すると画像所見がIPFと類似してくることがあるんです。

蜂谷:血液検査も画像検査も決定的ではないんですね。だから総合的に判断する必要があると…。

Dr.Y:つまり、現時点で少なくとも2つの可能性が考えられます。1つ目は、蜂谷さんは本当はIPFで、たまたま羽毛布団を使っていて、さらにたまたま鳥特異的IgGも陽性になってしまった(偽陽性)という可能性。2つ目は、蜂谷さんは本当は過敏性肺炎で、進行するうちに画像所見がIPFに似てきてしまったという可能性です。

3. どうやって診断するか〜CR診断とCRP診断

蜂谷:複雑ですね・・・検査によって、別々の疾患が想起されてしまって、もう訳がわかりません。結局、私は何なんですか。この先はどうやって原因をつきとめれば良いですか?

Dr.Yこのように臨床所見と画像所見を根拠に行う診断をCR診断といいます。臨床診断(Clinical diagnosis)と画像診断(Radiological diagnosis)の頭文字を取った用語です。しかしCR診断で確証が得られない場合、病理検査を追加する事があります。このようにして得られる診断をCRP診断と言います (2, 3)。

蜂谷:CRPのPは何ですか?

Dr.Y:病理診断、Pathological diagnosisのPです。

蜂谷:病理診断というのは?

Dr.Y:肺の組織を採取してきて、それを顕微鏡で観察しながら疾患の種類や進行の様子を診断する事です。

蜂谷:具体的に、顕微鏡で見るとどんな事が分かるんですか?

Dr.Y:肺の構造がどのように壊されているのか、また炎症細胞や線維化の細胞がどのような分布で広がっているか。肉芽腫と呼ばれるアレルギー性の異物反応のような所見が見られないか。それらによってIPF(特発性肺線維症)と過敏性肺炎のどちらの要素が強いかを確認します。

蜂谷:CとRだけでは決着がつかないので、第三者(P)に委託するという事ですね。

Dr.Y:ここで注意しておかなくてはいけないのが、CとRとPはそれぞれ対等だという事です。Pで出てきた所見がfinal diagnosis(最終診断)という事ではなく、あくまでC・R・Pを同じ比重で判断材料にして総合的に診断します。

蜂谷:対立する2人の意見のどちらが正しいか裁判所で決めてもらおうという事ではなく、あくまで話し合う人数を増やしましょうという事ですね。ちなみに、どうやって肺の組織を採取してくるんですか?

Dr.Y:肺の組織を取る方法には、手術と気管支鏡の2種類があります。

蜂谷:・・・手術!?気管支鏡!?それって、やった方が良いんですか?

Dr.Y:そうですね。特に禁忌などがなければやった方がよいと思います。


参考文献:
1. Shirai T,  et al. Screening and diagnosis of acute and chronic bird-related hypersensitivity pneumonitis by serum IgG and IgA antibodies to bird antigens with ImmunoCAP®. Allergol Int. 2021;70(2):208-214. doi:10.1016/j.alit.2020.09.003
2. 日本呼吸器学会 特発性間質性肺炎の診断と治療の手引き2022 南江堂
3. Raghu G,  et al. Diagnosis of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2018;198(5):e44-e68. doi:10.1164/rccm.201807-1255ST

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